エラベノベル堂

風が変えた夜

18+ NSFW

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1章 / 全10

「もうだめ……閉店するしかないよ」 結花は厨房の床に座り込み、エプロンを握りしめて泣き崩れた。昼時を過ぎた店内は閑散としており、昼仕込みしたハンバーグの半分が売れ残っている。洋食店『ゆいか食堂』を営む彼女の肩は、震えるように上下していた。 「そんなこと言うなよ。まだ何とかなるだろ」 岳は幼馴染の様子を見かねて駆けつけたものの、かけられる言葉が見つからない。彼は結花の泣き顔を見るのが苦手だった。子供の頃から変わらない、彼女の困ったときの表情だったからだ。 「だって見てよ、この客足。先月の半分にも満たないんだよ」 結花が顔を上げ、赤く腫れた目で訴える。 「みんなカトレアに行っちゃったんだ。あんなにおいしかったハンバーグなのに、お母さんが残してくれた味なのに」 近所にできた『ビストロ・カトレア』。オープンから三ヶ月、洗練された内装と若手シェフの話題性で瞬く間に人気店となり、ゆいか食堂の客を根こそぎ奪っていた。岳はアウトドアサークルで培った観察眼を活かし、店内を見渡す。メニュー構成、立地、価格設定。そして、客層の変化。彼の頭の中で情報が整理されていく。 「結花、まずは落ち着こう。原因がわかれば対処法も見つかるはずだ」 「原因なんて決まってるじゃない。カトレアができたからだよ」 結花が涙を拭い、乱暴に厨房の器具を片付け始める。 「私は……私はお父さんとお母さんが築いた店を守りたかった。それなのに」 岳は彼女の背中を見つめ、拳を握りしめた。このままでは結花の夢も、両親の思い出も、消えてしまう。彼はアウトドアサークルで学んだ知識を総動員し、状況を分析し始めた。風の流れ、日当たり、立地条件。そして、客の心理。彼の脳裏に、ある仮説が浮かび上がる。 「結花、俺に考えがある。店を救う方法が、もしかしたら見つかるかもしれない」 彼女が振り返り、涙に濡れた瞳で岳を見つめた。その瞳に、微かな希望の光が宿る。

1章 / 全10

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