エラベノベル堂

舞台の処方箋

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古びた薬箪笥が並ぶ店内には、乾燥した草本の香りが微かに漂っている。悠陽は軒先で干された薬草の具合を確認しながら、通りを行く人々の顔色を無意識に観察していた。 「あの子、眠れてないな」 「あちらの方は胃が弱っている」 そんな思考が自然と浮かんでくる。漢方薬局で育った環境が、彼に人の体調を読み取る目を養わせていた。カウベルの音が鳴り、初老の男性が店に入ってきた。ふくよかな体格に柔らかな物腰。恩人の信太郎だ。 「悠陽くん、いるかい?」 彼は店の奥に向けて声をかけた。 「信太郎さん、いらっしゃいませ」 悠陽は手を拭いてからカウンターの前に立った。 「今日はこれを届けてほしいんだ」 信太郎が取り出したのは、小さな布袋に入った生薬だった。独特の香りが鼻をくすぐる。 「劇団の女優さんに?」 「そう、美鈴というんだがね。今度の公演で主演を務めることになっていてね。少し神経が高ぶっているようでね」 信太郎は目を細めて笑った。 「その女優さんは見たことがあります。輝いているのですが、どこか無理をしている気がするんです」 悠陽は袋を受け取りながら答えた。 「鋭いな。さすがだ」 信太郎は満足そうに頷いた。 「小劇団だからね。劇場は駅から少し入ったところにある。今日のリハーサル終わりに渡してきてくれないか」

1章 / 全10

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