エラベノベル堂

舞台の処方箋

18+ NSFW

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2章 / 全10

駅から路地を曲がり、古びた看板が掛けられた劇場に悠陽は立っていた。『劇団スターダスト』の文字は薄く、顔料が剥げ落ちている。入口の扉を押すと、舞台から漏れる照明が薄暗い廊間を照らしていた。 「どちら様ですか?」 と、緑のつなぎを着た男性が駆け寄ってきた。 「漢方薬局から届け物を。美鈴さんにお渡ししたいのですが」 「ああ、信太郎さんからだね。楽屋裏に通しますよ」 男性は案内しながら、舞台の様子を気にしている。 「美鈴さん、今回の公演で主演なんです。劇団にとっては大事な役者さんでね」 楽屋裏は狭く、衣装や小道具が乱雑に置かれている。鏡の前には一人の女性が座っていた。照明を浴びた彼女は、確かに輝いて見えた。艶やかな黒髪、整った目鼻立ち、陶器のような肌。 「美鈴さん、お薬が届きました」 女性が振り返り、微笑んだ。 「ありがとうございます。信太郎さんが?」 「はい」 悠陽は布袋を差し出した。美鈴が受け取ろうとした瞬間、彼は見てしまった。彼女の手が微かに震えていることに。そしてその微笑みに影があることに。 「……ありがとうございます」 と美鈴は言ったが、その声には張りがない。悠陽は布袋の中身を確認した。乾燥したハーブの香り。 「これはハーブティーですね」 美鈴の手が止まった。 「……分かるの?」 「漢方薬局で育ちましたから。効果はリラックス効果くらいでしょうか」 美鈴は静かに笑った。 「信太郎さんも、優しいですね」 彼女の微笑みが少しだけ綻んだ気がした。だが悠陽は見抜いていた。この女性は舞台上では輝いているが、その心には大きな穴が空いている。作り物の笑顔の裏に、押し殺した虚無感が潜んでいる。 「美鈴さん、無理はなさらないでください」 と悠陽は自然に言葉を継いだ。 「え?」 彼女の目が初めて、真正面から悠陽を見た。そこには疲労と、誰かに気づいてほしいという静かな願いがあった。

2章 / 全10

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