桐乃は年上の男性が好きだった。正確に言えば、父性を感じさせるような包容力のある男性に弱い。幼い頃に父親を亡くした影響かもしれないと、彼女自身は分析していた。二十歳を過ぎてからその傾向は顕著になり、大学の講義をサボっては街を彷徨い、理想の男性を探す日々が続いた。 「ねえ、桐乃ちゃん、今度ホームレス支援のボランティアに行かない?サークルの友達も誘ってるんだけど」 友達の誘いに、桐乃は首を縦に振った。父性への憧れが、社会的に弱い立場の人々への同情心と混ざり合い、何か意味のあることをしたいという衝動に駆られていたからだ。公園の片隅に設けられた炊き出しの場所には、十数人のホームレスたちが列を作っていた。夏の盛り、汗と埃の匂いが漂う中、桐乃はおにぎりを配りながら彼らの顔を観察した。多くの人は疲れ切った表情をしている。どこか諦めの色が見える。しかし、一人だけ違った。整った顔立ちに、落ち着いた物腰。薄汚れた服を着ていても、その内面から滲み出る知性は隠せない。彼はシンイチと名乗った。元高校教師だと聞いて、桐乃は納得した。確かにその雰囲気は、どこか学校の先生を思わせる。 「君は学生さんかい?」 シンイチの声は低く、よく響いた。夜の深淵のような瞳が桐乃を真っ直ぐに見つめる。その視線に、桐乃は背筋が震えるのを感じた。 「はい、文学部の二年生です」 「文学部か。いいね。若いうちは本を読むといい。人生の幅が広がるから」 にっこりと微笑むシンイチに、桐乃の胸が熱くなった。誰も自分をそんな風に見てくれたことがない。ただの若い女としてではなく、一人の人間として対話してくれる。その優しさが、たまらなく愛おしい。 「シンイチさんは、どうしてここに?」 「さあね。いろいろあったのさ」 それ以上は聞かなかった。けれど、桐乃の心は決まっていた。この人のことをもっと知りたい。その穏やかな瞳の奥に何があるのか、見てみたい。ボランティアが終わる頃、シンイチはテントの方へと歩いていった。その背中を、桐乃はいつまでも見つめていた。帰り道、桐乃は自分の胸に手を当てた。早鐘のように打つ心臓。これは恋なのかもしれない。いや、もっと深い何かかもしれない。年上の男性に抱いてきた漠然とした憧れが、具体的な形を持ち始めていた。明日もまた、この公園に来よう。そう決めた瞬間、桐乃の運命の歯車が静かに回り始めたのだと、彼女はまだ知らなかった。
慈善の悦び
18+ NSFW小説ID: cmommv21m09k101oc1vwls9du










