翌朝、葵は校門の前に立ち、いつものように蓮を待っていた。胸の奥がざわつく。昨日のあの出来事。机の上で交わった熱。忘れようとしても、体が覚えていた。 「おはよう、葵ちゃん」 声を聞いて、葵は息を呑んだ。蓮が立っていた。ネクタイは完璧に結ばれ、襟のボタンもしっかりと留まっている。ブレザーも折り目正しく、制服に一点の隙もない。 「……おはよう」 葵は言葉を失った。毎朝注意するのが日課だった。ネクタイが緩んでる。襟が開いてる。そう言って、彼のネクタイを直すのが、密かな楽しみだったかもしれない。 「今日は何も言うことないよね?」 蓮が悪戯っぽく笑う。その笑顔が、葵の胸を締め付けた。 「……そうね。完璧よ」 「じゃあ、行こうか」 蓮が歩き出す。葵はその背中を呆然と見送った。注意する理由がない。彼に近づく口実がない。昨日、あんなに激しく抱かれたのに。今日は、まるで他人行儀。そんなの、嫌だ。 「待って」 葵は蓮の腕を掴んだ。 「どうしたの?」 葵は周囲を確認した。生徒たちは各自のペースで登校している。誰も二人に注意を払っていない。 「……校則違反の疑いがあるから、ちょっと来て」 「え?何もしてないけど」 「私の判断でいいの。来て」 葵は蓮の手を引き、校舎の裏手にある用具室へと向かった。鍵を開け、彼を中に押し込む。狭い空間。積み上げられたマットや用具の匂い。葵は鍵をかけ、蓮に向き直った。 「葵ちゃん、どうしたの?何か怒ってる?」 「……怒ってないわよ」 「じゃあ、なんでこんなところに」 「あなたの制服、検分させてもらうから」 「検分?」 「昨日、私の前でだらしない格好してたでしょ。その証拠を確認するの」 言い訳だとわかっていた。でも、そうでも言わないと、自分の感情を説明できなかった。蓮がふっと笑う。 「葵ちゃん、寂しいんでしょ」 「……違う」 「嘘。俺に構ってほしいんだよね」 蓮が一歩近づく。用具室の狭さが、二人の距離を強制的に縮める。 「毎朝注意してほしかったのは、俺の方じゃなくて、葵ちゃんの方だったんじゃない?」 「……何よ、それ」 「俺に触れたかったんでしょ。ネクタイ直すふりして」 図星だった。葵の顔が熱くなる。 「バカ……違うわよ」 「じゃあ、なんでそんなに顔赤いの?」 蓮の手が、葵の頬に触れた。優しく、でも確かな熱を込めて。 「昨日のこと、覚えてる?」 「……覚えてるに決まってるでしょ」 「俺も覚えてるよ。葵ちゃんの中、すごく熱かった。気持ちよかった」 その言葉で、昨日の感覚が蘇る。机の上で押し倒され、蓮の熱を受け入れた快感。 「蓮……」 「俺、葵ちゃんのこと好き。だから、今日もこうして完璧な制服で来たのに」 「……意味わかんない」 「葵ちゃんに、俺のこともう一度捕まえてほしかったから」 葵の心臓が激しく跳ねた。蓮はわざと完璧な制服で来た。葵が自分からアクションを起こすように。 「……意地悪ね」 「ごめん。でも、そうでもしないと、葵ちゃんから言ってくれないと思って」 蓮が両手で葵の顔を包み込む。 「俺、葵ちゃんに支配されたいよ。風紀委員の葵ちゃんに、いっぱい注意されたい」 葵の奥底で、熱いものが弾けた。 「……じゃあ、言うわ」 葵は蓮の襟元に手を伸ばした。 「制服を脱いで。校則違反の証拠を検分するから」 「……検分って」 「最初から最後まで、私が調べるの」 蓮が満足そうに笑った。 「はい、風紀委員さん」 狭い用具室で、二度と離れられない関係の幕が開いた。
検閲済みプロット
白灯花学園の風紀委員・葵は、校則違反を許さない真面目な女子生徒。対する蓮は、毎朝ネクタイを緩めて登校し、葵に注意される問題児。文化祭準備で二人は「落とし物相談所」の担当となり、密室で秘め事を共有していく。蓮の意外な優しさに惹かれた葵は、彼がわざと校則を破って自分の気を引いていたと知り、禁断の関係を持つ。
















