エラベノベル堂

放課後屋台と公開告白

全年齢

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1章 / 全10

文化祭前日の午後、教室には段ボールの匂いと、妙に落ち着かない熱気が満ちていた。黒板には屋台準備の予定がびっしり書き込まれ、その前で学級委員の隼太は腕を組んで立っている。焼きそば屋台の責任者に任された以上、段取りを崩すわけにはいかない。何時に鉄板を運び、誰が具材を切り、どの順で火を入れるかまで、彼の頭の中ではもう手順が一本の線になっていた。 「そこまで細かく決めなくても、なんとかなるって」 振り向くと、葵奈が机の上に腰掛けたまま、片手で紙袋を揺らしていた。遅刻常習のくせに、こういう時だけ妙に目が冴えている。彼女は教室を見回しながら、看板は目立つ色がいいだの、ソースの香りを外まで流したいだの、次々に思いつきを口にした。 「なんとかなる、で済ませたら足りなくなる」 「でも、固すぎると面白くないでしょ」 「面白さより、まず失敗しないことが先だ」 言い返した瞬間、隼太は少しだけ言い過ぎたと思った。だが葵奈はむっとした顔のまま、すぐに別の案を投げてくる。鉄板の横に順番札を置こう、呼び込みは交代制にしよう、紙皿の数も少し多めにしよう。思いつきはばらばらなのに、妙に芯がある。隼太は眉をひそめつつも、その中に必要なものが混じっていることを認めざるを得なかった。 やがて二人は、同じ場所で同じ紙を見ながら作業を進めることになった。隼太が材料表を作ると、葵奈が足りない備品を数え直す。葵奈が呼び込みの言い回しを考えると、隼太が時間配分に落とし込む。片方だけでは散らばる準備が、もう片方の手で自然に整っていく。 「……お前、意外と数えるのは正確なんだな」 「隼太こそ、細かいところまで抜けないんだね」 短いやり取りだったが、さっきまでの空気は少し柔らいでいた。互いを真逆だと思っていたはずなのに、必要な作業に手を出せば、不思議と噛み合う。隼太は自分の几帳面さが役に立つ瞬間を見つけ、葵奈は自由な発想が否定されない場所を知った。 夕方になり、教室の窓から傾いた光が差し込むころ、二人はようやく山積みの段ボールを前に並んで立った。まだ始まったばかりだ。それでも、最初のぶつかり合いの中で、相手の見え方が少し変わり始めている。その変化を、隼太は自分でもうまく言葉にできないまま、手元のメモを押さえた。葵奈もまた、いつもの軽さを少しだけ引っ込めて、次に何を運ぶかを静かに見つめていた。

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