エラベノベル堂

放課後屋台と公開告白

全年齢

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2章 / 全10

教室の後ろで、看板用の板が床に立てかけられていた。白く塗ったままの表面は、まだ何も語らず、妙に広く見える。隼太は定規を当て、鉛筆で文字の位置を細かく測った。太く書けば遠目には目立つが、雑に見える。細くしすぎれば読めない。その間を取るのが難しい。 「うーん、真面目すぎるとおいしそうじゃないね」 葵奈は板の前にしゃがみこみ、顎に指を当てたまま首を傾げた。隼太は眉を寄せる。 「看板は味じゃないだろ」 「でも、通りかかった人が止まるかどうかは、もう半分味みたいなものだよ」 言い返そうとして、隼太はふと口を閉じた。確かに、彼の下書きは整いすぎていて、目を引く力が足りない。葵奈は板の端を指で軽く叩き、にやりと笑った。 「ねえ、文字は隼太ので、見せ方は私でいこう」 「どういう意味だ」 「大きく書くところと、目立たせる色を分けるの。真ん中に焼きそばってどんと置いて、上に少し遊びを入れる。読む人が楽しい方が勝ち」 隼太はもう一度下書きを見直した。余白を削りすぎず、文字の間を少し開ける。そこに葵奈が、空いた場所へ小さな湯気の線を足す案を出す。派手すぎないのに、視線が自然に集まる。最初はただの落書きに見えたその曲線が、板の硬さをほどいていく。 「これなら、読みにくくはならないか」 「でしょ。隼太が土台を作るから、私が遊べるんだよ」 「土台って言い方は、少し大げさだな」 「じゃあ、支え。ほら、支えがあると目立つものも安心して立てる」 冗談めかした声に、隼太は思わず小さく息を漏らした。気づけば、さっきまでの張り詰めた沈黙はどこかへ消えている。葵奈が笑えば、隼太もつられるように口元を緩めた。 「お前、たまには役に立つな」 「たまには、って何。今、かなりいい案出したよね」 「否定はしない」 そのやり取りに、葵奈は満足げに胸を張った。隼太は板の上に最後の線を引き、二人で少し離れて眺める。目立つのにうるさくない。勢いがあるのに、文字はきちんと読める。自分ひとりではたどり着けなかった形だった。 「なんか、できたね」 葵奈の声は珍しく静かで、けれど嬉しそうだった。隼太も、胸の奥が少し軽くなるのを感じる。小さな成功だが、確かに手応えがある。机の上には鉛筆の削りかすが散らばり、板には二人の考え方が同じ面に残っていた。 「じゃあ次は、色を塗る順番だな」 「また細かい」 「細かくないと、また余計なところで崩れる」 「はいはい、責任者さん」 からかう口調にも棘はない。隼太は苦笑しながら、塗り分けの下準備を始めた。葵奈は隣で筆を手に取り、どこから色を乗せるかを楽しそうに眺めている。二人の声は、もうぶつかるより先に、少しだけ弾んでいた。看板はまだ完成の途中だが、その途中ですら、昨日までとは違う空気が教室に満ちていた。

2章 / 全10

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