放課後の教室は、窓の外がすでに薄青く沈みはじめていた。看板の色が乾くのを待つ間、隼太は仕入れた材料の袋をひとつずつ並べ直している。キャベツ、もやし、麺、ソース。数は足りているはずなのに、並びが少しでも乱れると気持ちが落ち着かない。 「そんなに睨まなくても、逃げないよ」 葵奈は椅子の背に軽く寄りかかり、袋の山を見て笑った。次に彼女は、買ってきた試供の小さな紙皿を手に取り、ふと思いついたように目を細める。 「ねえ、普通の焼きそばに一個、ひと工夫入れない?」 「ひと工夫って、また曖昧だな」 「曖昧じゃないって。最後に香りを立たせるなら、少しだけ青のりを別に振るとか、紅しょうがを選べるようにするとか。見た目も味も、ちょっとだけ選べたら楽しいでしょ」 隼太は一瞬、言葉を失った。看板の時もそうだったが、葵奈の案は一見すると飛び道具だ。だが今回も、ただ奇抜なだけではない。客が自分で選べる余白を作れば、列の中でも印象に残る。 「……確かに、悪くない」 「でしょ。責任者さん、たまには認めるの早い」 口では軽く返したものの、隼太はすぐに試作の準備に移った。問題は、そのままでは案が派手すぎて崩れることだ。青のりの量、紅しょうがを置く容器の位置、選べるようにした時の手順。彼は手早くメモを取り、順番を組み直していく。葵奈の思いつきに、隼太の几帳面さが細い骨組みを与えると、ただの思いつきが一つの形になる。 鉄板が温まると、油の匂いがふっと広がった。最初の一枚は少し厚めに麺を広げ、二枚目は具を先に炒めて味の乗り方を比べる。葵奈は横で味見用の皿を並べ、隼太は焼き上がりの時間を秒単位で確認する。 「こっちは香りが先に来る」 「こっちは食べた時にまとまるな」 二人で交互に口にすると、微妙な違いがはっきりした。葵奈の提案は、ただ変わっているだけではなく、人の手を引き寄せる。隼太の調整は、その引力が暴れないように支える。 教室の入り口にいたクラスメイトが、いつの間にかこちらを見ていた。 「なんか、あの二人ってほんと噛み合ってるよな」 そんな小声が聞こえて、隼太は手を止めた。葵奈も少しだけ目を丸くする。それから、何でもないふうに肩をすくめた。 「ほらね。私の発想、ちゃんと使えるでしょ」 「発想だけならな」 「じゃあ、使えるようにしたのは誰?」 隼太は返事をしなかった。だが、試作の皿を差し出す手つきは、もう迷っていなかった。焼き上がった麺は湯気を上げ、少しだけ特別な匂いをまとっている。誰かに見られていることも、いつの間にか気にならなくなっていた。 葵奈が笑い、隼太が小さく頷く。そのたびに、教室の空気は少しずつ軽くなる。対照的な二人が、それぞれの足りないところを自然に埋め合っている。そんな見え方が、周囲の中で静かに固まり始めていた。
放課後屋台と公開告白
全年齢小説ID: cmonwv4ne005d01pksmwwzsw9
