拓也は廊下を歩きながら、手元の資料に目を落としていた。午後三時を回ったオフィスは気だるげな空気が漂い、自分以外に誰もいない通路は静まり返っている。資料室へ向かう途中、背後から控えめな足音が近づいてくるのに気づいた。 「あ、拓也さん、お疲れ様です」 振り返ると、入社二年目の美羽が書類の束を抱えて立っていた。いつものように控しめなスカートに白いブラウス、地味な色のカーディガンを羽織った大人しい印象の彼女だ。 「お疲れ様。資料室?」 「はい、部長に頼まれて……」 美羽は少し恥ずかしそうに笑って、拓也の隣に並んだ。二人で並んで歩き出す。特に会話もなく、ただ足音だけが響く。拓也は美羽のことを詳しくは知らなかった。いつも丁寧に挨拶をしてくる大人しい後輩、その程度の認識だ。カーブを曲がろうとした瞬間だった。美羽が小さく 「あっ」 と声を上げ、バランスを崩した。抱えていた書類が床に散らばり、彼女自身も派手に転倒する。 「大丈夫か?」 拓也は慌てて駆け寄り、手を差し出した。美羽は痛みに顔を歪めながら、スカートの裾を気にしている。 「すみません、足元が……」 助け起こそうとしゃがみ込んだ拓也は、思わず息を呑んだ。スカートが捲れ上がり、白い太ももの奥に黒い布地が見え隠れしている。それは単なる下着ではなかった。繊細なレースが施されたガーターベルト。太ももの付け根を締め付けるベルト。その濃密な黒が、白い肌とのコントラストを描いている。拓也は一瞬、時が止まったように感じた。大人しくて地味な美羽の姿が、目の前の光景とどうしても結びつかない。 「……拓也さん?」 美羽の声で我に返った。視線を上げると、彼女がこちらを見つめていた。顔を赤らめ、慌ててスカートを押さえるのかと思った。しかし美羽はただ静かに微笑んでいるだけだ。 「見えちゃいました?」 その声は驚くほど落ち着いていた。拓也は言葉を失う。 「あ、ああ、ごめん、わざとじゃ……」 「知ってました? 私、こういうの好きなんです」 美羽は散らばった書類を拾い集めながら、悪戯っぽい目で拓也を見上げた。 「大人しい子だと思ってません? 拓也さん」
ヴェールの裏側
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