休日の商店街は、午後の光でやけに白く見えた。俺はいつもの癖で、なるべく人混みの端を歩いていた。視線の先にいるだけで空気が重くなる女がいるからだ。学校一の不良、朱莉。名を出すだけで、同級生たちは面白がるように声を潜め、先生たちは諦めたみたいに眉をしかめる。そんな噂だけが先に膨らんで、本人の顔すらまともに見たことがないまま、俺は勝手に怯えていた。 その朱莉が、雑貨屋の前で立ち止まっていた。 赤い髪が陽に透けて、派手な見た目だけなら噂通りだった。けれど、彼女の足元には目をこすって泣いている小学生の男の子がいて、朱莉はしゃがみこむと、乱暴な声とは正反対の丁寧さで声をかけていた。 「ほら、これ。鼻、拭け」 差し出したのは、端の整った白いハンカチだった。指先まで落ち着いていて、まるで別人みたいだった。男の子は最初こそびくっとしたが、朱莉が少し首を傾けて待つと、やがておずおずとそれを受け取った。 朱莉はそれ以上押しつけない。ただ、泣き止むまで少し離れた場所で見守り、道の反対側にいる大人を目で探していた。怖いと聞いていた人間が、こんなふうに誰かのためにしゃがむなんて思ってもいなかった。 俺は咄嗟に身を隠すように、八百屋の軒先へ寄った。心臓が妙にうるさい。噂が全部嘘だとは思わない。たぶん、あの鋭い目つきや近寄りがたい空気は本物だ。それでも、今見た顔は、俺の知っている 「不良」 の型にははまらなかった。 男の子がようやく涙を止めると、朱莉はハンカチを軽く指で示し、何か短く言葉を添えた。男の子が小さくうなずくのを見届けると、彼女は立ち上がる。そこで初めて、彼女の視線がふと商店街のざわめきへ流れた。 俺は見つかった気がして、思わず息を止めた。だが朱莉は俺を睨むでもなく、ただ一瞬だけ目を細めた。その表情が、噂で固めた像よりずっと生々しくて、俺は逃げ出すことも忘れてしまった。 彼女が角を曲がって消えたあとも、手に残った白い余白みたいな静けさがなかなか消えなかった。学校一の不良は、泣いている子どもにハンカチを渡すような女だったのか。それとも、あれこそが本当の顔で、俺たちが勝手に怖がっていただけなのか。 答えはまだ出ない。ただ、胸の奥に小さな引っかかりだけが残って、俺は商店街の騒がしさの中で、もう一度だけ朱莉の消えた方角を見た。
不良少女と年下たち
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