放課後の商店街は、夕方の光にまだ熱を残していた。朱莉は腕を組んだまま、いつものように前を歩いている。さっきまでの不機嫌さは消えていないのに、今日は妙に周囲を見回す回数が多い。俺はその横顔を見ながら、もう言い逃れできないところまで来ていると感じていた。 「おい」 朱莉が低く言う。 「さっきから何にやにやしてんだよ」 「別に」 「別に、じゃねえ顔してるっての」 その言い方を聞いて、俺は少しだけ息を吐いた。ここまで来れば、隠す方が無駄だ。 「本当はさ」 俺は朱莉を見上げる。 「年下たちに甘えられて嬉しいだけだろ」 歩く足が、ぴたりと止まった。 朱莉の目が見開かれて、それから一気に赤くなる。耳まで染まっていくのが、夕方の光のせいだけじゃないのは明らかだった。 「はあ? 何言ってんだ、おまえ」 声はいつも通り荒い。だが、語尾が妙に上ずっている。 「違うし。別に嬉しくなんか」 「でも、さっきからずっと子ども見てた」 「見てねえ」 「見てた」 「見てねえって」 否定するたびに、朱莉の赤みが増していく。俺は畳みかけるのをやめられなかった。 「困ってる顔見たらすぐ飛んでいくし、名前呼ばれたら返事するし、褒められると気まずそうだし。どう見ても、甘えられるのが嫌いじゃないだろ」 「うるせえ」 朱莉は俺の肩を軽く小突いたが、力が入っていない。 「そういう言い方すんな」 その一言が、もう半分認めているみたいで、今度は俺の方が笑いをこらえるのに苦労した。 そのときだった。 商店街の向こうから、元気な声がいくつも飛んでくる。振り向くより先に、朱莉の周囲へ小さな影が集まってきた。さっきまで広場で遊んでいた子どもたちだ。ひとりが朱莉の袖を引き、別の子が顔を覗き込む。 「朱莉、いた!」 「さっき見つけたよ!」 「これ見て」 次々に差し出される折り紙やら小さな石やらに、朱莉は完全に固まった。さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、赤くなったまま一歩も動けない。 「ちょ、待て。離れろ」 「えー」 「何でこんな集まって」 「朱莉に会いたかったから!」 その一言で、朱莉はさらに言葉を失った。子どもたちは遠慮なく彼女の周りを囲み、口々に話しかける。さっきまで俺に向けていた脅しも、ここではまるで通用しない。 完全に立場が逆だった。 俺が言い返したせいで赤面した朱莉は、今や街の子どもたちにすっかり囲まれて、逃げ道まで塞がれている。本人だけが不満そうに眉を寄せているのに、その真ん中で一番懐かれているのがまた笑える。 「おい、押すなって」 「朱莉、こっち見て」 「名前呼ぶな、うるせえ」 言葉は強いのに、押し返す手つきはひどく不器用だった。俺はその光景を見て、とうとう吹き出した。朱莉がこっちを睨む。けれど、もう遅い。商店街の夕暮れの中で、彼女は脅す側どころか、子どもたちに囲まれて逃げ場を失ったただの赤面した顔になっていた。
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学校一の不良と呼ばれている女子。休日に街で泣いている小学生を助ける意外な一面をきっかけに、語り手は彼女に心を惹かれていく。しかし彼女には年下の子に過剰にかまいたがる強い執着があり、コミカルに騒動が広がる。彼女は筋金入りのワルとして周囲を振り回し、最後は思わぬ弱みを握られて立場が逆転するコメディ。
