エラベノベル堂

灼熱研究室の雪女

18+ NSFW

小説ID: cmoyx0p2n000001o097g9504q

2章 / 全10

「ひっ、ひっ……」 信一は呼吸を荒げながら後ずさる。椅子のキャスターが床を転がり、背中が本棚にぶつかった。分厚い学術書が数冊、音を立てて床に滑り落ちる。 「逃げるの?」 女は小首をかしげ、ゆっくりと歩み寄ってくる。白衣の裾が床を引きずり、音もなく動く様は幽霊そのものだ。 「だ、誰なんだ……君は」 「誰でしょうね」 女は艶やかに笑う。その笑みは、恐怖であるはずなのに、どこか甘美で、信一は目を逸らせずにいた。 「この大学には古い言い伝えがあるんですよ」 女はさらに近づく。冷気が彼女を中心に広がり、信一の汗ばんだ肌を撫でた。 「雪女の怪談……聞いたこと、ありませんか?」 「ゆき、おんな……」 信一は震える声で繰り返す。確かに聞いたことがある。何年も前、研究室に閉じ込められた教授が凍死したという噂。原因不明の低体温症で、真夏の夜に。 「そう。彼を凍らせたのは私」 女は信一の目の前で立ち止まる。冷たい指先が、彼の頬をなぞった。 「でもあなたは……少しだけ、特別」 「特別、だと」 「ええ。暑がりなあなたを、存分に冷やしてあげたい」 女は白衣の襟元を緩め、その下の白い肌を露わにする。信一はごくりと喉を鳴らした。恐怖と、抗えない魅了。相反する感情が体内で激しく交錯する。 「さあ、こっちへ」 白く滑らかな腕が、信一を招く。彼はまるで糸で操られる人形のように、魅入られたまま立ち上がった。 「いい子」 女は満足げに囁き、彼の首に腕を絡める。冷たくて、でもどこか心地よい抱擁。信一の意識は、熱と寒さの狭間で溶け始めていた。

2章 / 全10

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