エラベノベル堂

聖夜の訪問者

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10章 / 全10

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クリスマスが終わった街は、昨夜までのきらめきが嘘みたいに落ち着いていた。通りを行く人の足取りも、店先の音楽も、もう少しだけ現実の速度に戻っている。そんな朝の空気の中で、悠真は美音と並んで歩いていた。 「ケーキ、ほんとにいいんですか」 美音が、少しだけ首をかしげる。昨日までの彼女なら、たぶん断る理由を先に探していたはずだ。けれど今は、そうしない。悠真はその変化を、冬の陽だまりみたいだと思った。 「約束したでしょう。昨日のうちに」 「昨日のうちに、ですか。なんだかもうずいぶん前みたいですね」 ふたりは駅前の小さな洋菓子店に入った。ガラス越しに並ぶショーケースは、飾り気のある昨夜と違って、どこか控えめだ。それでも、白いクリームの上にのった赤い果実は、静かに季節の名残を伝えていた。美音は迷いながらも、ひとつずつ視線を移し、最後に小さく息をついた。 「これにします」 選ばれたのは、少しだけ背伸びしたような、でも派手すぎないケーキだった。悠真はそれを見て、妙に納得した顔になる。 「美音さんらしいですね」 「どういう意味ですか」 「ちゃんと甘いけど、甘すぎない」 美音は一瞬きょとんとして、それから吹き出した。 「それ、褒めてます?」 「褒めてます」 レジで会計を済ませると、紙袋は思ったより軽かった。なのに、手に持った瞬間、ただの買い物以上のものを運んでいる気がした。店を出ると、冷たい風が頬を撫でたが、不思議と昨日ほど寒くはない。隣にいる誰かの体温が、確かにそこにあった。 「ねえ、悠真さん」 「はい」 「昨日の私は、行き場をなくしたまま立ってました。でも、今日の私は、ちゃんとここに来れました」 悠真は歩調を緩めて、美音を見る。彼女は笑っているのに、目元だけが少しだけ真剣だった。 「だから、次も決めつけずに来てもいいですか」 その言い方は、告白でも誓いでもない。ただの、ささやかな約束だった。けれど悠真には、それが何より確かなものに思えた。 「ええ。ケーキがなくても、来ればいい」 「それだと、口実がなくなるじゃないですか」 「なくてもいいでしょう」 美音は困ったように笑い、それから紙袋をそっと抱え直した。朝の光の中で、ふたりの影が並んで伸びる。偶然の夜から始まった距離は、もう不安だけでできてはいなかった。日常のなかに置ける約束へ、静かに形を変えている。 美音は街路樹の向こうを見上げ、ふっと息をこぼした。 「じゃあ、また今度」 悠真はその言葉を、逃げ道のない優しさみたいに受け取った。 「また今度」 ケーキの入った紙袋が、歩くたびに小さく揺れる。二人は何でもない顔で並んだまま、冬の朝を少しずつ進んでいった。

検閲済みプロット

クリスマスイブに突然、サンタ風の衣装を着た女性が家を訪ねてきた。話を聞くと、前に住んでいた人の恋人で、知らないうちに相手が引っ越してしまったらしい。彼女が連絡してもあっさり別れを告げられ、寒さで弱っていたため中へ招き入れる。泣き出した彼女を慰めて慰め合ううちに距離が縮まり、気まずさとときめきが入り混じるラブコメディへ変化する。クリスマスが終わるところで締め、翌日に一緒にケーキを買いに行く。

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