エラベノベル堂

聖夜の訪問者

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小説ID: cmoz7v8pc000801noqx3hozu9

9章 / 全10

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朝の光は、昨夜までの騒がしさを薄く洗い流していた。カーテンの隙間から差し込む白い光が、壁の飾りをやわらかく照らしている。赤と金の星は、まだ眠りの残る部屋の中で静かに揺れていた。 悠真が先に目を覚ましたわけではなかった。気配に気づいて目を開けると、向かいの椅子で美音が小さく身じろぎしていた。毛布にくるまれたまま、まだ半分だけ夢の中にいるような顔をしている。昨夜の涙の痕はもう乾いていたが、頬には寝起きの無防備さが残っていた。 「おはようございます」 美音は目をこすり、少し間を置いてから周囲を見回した。飾りつけされた部屋と、テーブルの上の湯のみ、それから悠真の顔を順に見て、ようやく現実に戻ってくる。 「……おはよう、ございます。まだ、ここにいたんですね」 「昨日の話、覚えてます?」 「一晩だけ、というやつですか」 そう言って、美音は自分の言葉に小さく笑った。悠真もつられるように口元を緩める。寝起きの空気は少し気恥ずかしいのに、不思議と気まずくはなかった。 美音は毛布の端を握りながら、飾りを見上げる。 「この部屋、昨日よりちゃんとクリスマスですね」 「美音さんが手伝ったからでしょう」 「え、そこは悠真さんが褒めるところじゃないんですか」 「十分褒めてます」 言い返されると、美音は少しだけ目を丸くして、それからくすくす笑った。昨夜まで張りつめていた人とは思えないほど、笑い方が軽い。その変化が、悠真には妙にうれしかった。 「ねえ、悠真さん」 「はい」 「私、あのときここに来なかったら、たぶんずっと意地を張ってました」 悠真はすぐには答えず、壁の飾りを見た。偶然ついた灯りのようなこの部屋で、彼女は何度も言葉を探し、ようやく自分の気持ちに触れたのだ。 「でも、来たんですよね」 「……そうですね。来ちゃいました」 その言い方が可笑しくて、二人とも同時に息を漏らす。たった一夜のことなのに、ただの気まぐれでは片づけられない何かが、もう部屋の隅に根を下ろしていた。居場所をなくしたはずの人と、ひとりのまま夜を越えるはずだった人が、こうして朝を迎えている。 美音は湯のみを両手で包み、少しだけ真面目な顔になる。 「偶然って、たまにひどいですけど。たまに、ちゃんと意味もあるんですね」 悠真はその言葉に短く息を吐いた。 「今のところは、そう思っておきます」 美音はうなずき、窓の外に目を向けた。朝の街はもう動き始めているはずなのに、この部屋だけはまだ静かだった。けれどその静けさは、昨夜の孤独とは違う。誰かが隣にいる静けさだ。 「……なんだか、出会う順番も悪くなかった気がします」 悠真は少し考えてから、同じように窓の外を見た。 「たぶん、悪くなかったんでしょうね」 美音はそれを聞いて、今度は何も言わずに笑った。飾りの星が朝の光を受けて、小さくきらめく。部屋の中には、昨夜の余韻だけではない、まだ名前のつかない温度が残っていた。

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