エラベノベル堂

幼馴染の見栄恋

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1章 / 全10

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放課後のゲーム店は、平日のわりにやけに人の声が多かった。筐体の前でコインを弾きながら、佐伯優真は画面越しに口元をゆるめる。 「昨日さ、うちの彼女がさあ。俺の好み、完璧に把握しててさ」 隣でコントローラーを構えていた宮本柚菜が、負けじと鼻で笑った。 「へえ。こっちは逆に、彼氏がね、私のために限定メニュー並んでくれたんだけど。そういう気遣い、できる人なんだよね」 「限定メニューって、何だよ」 「え、知らないの? ほら、あの、すごく甘いやつ」 優真は一瞬だけ視線を上げ、それからわざとらしく大げさに肩をすくめた。柚菜も同じように、当然のような顔をしている。 互いに言っていることが雑に盛られているのは、最初の一言でわかる。なのに、どちらも引かない。 「俺の彼女はさ、メッセージも上手いんだよ。短文なのに心がこもってるっていうか」 「こっちは長文だけどね。毎回、ちゃんと気持ちが伝わるように書いてくれるし」 「へえ、長文ね」 「へえ、短文ね」 にらみ合いというほど険悪でもない。むしろ、二人とも相手の言葉の端っこにある綻びを楽しんでいる顔だった。 優真が次の勝負に入ると、柚菜はスティックを素早く倒して相手の隙を突く。 「で、その彼女、名前は?」 「え?」 「え?」 「聞こえなかったのか?」 「聞こえたけど、今の流れで本当に聞く?」 柚菜は笑いをこらえきれず、少しだけ頬をふくらませた。 「優真こそ、彼氏なのに私の好きな飲み物、言える?」 「当然。いや、えっと、あれだろ。甘いやつ」 「雑」 「そっちだって限定メニューしか言ってないじゃん」 言い返しながらも、二人の目はどこか楽しそうだった。幼馴染だからこそ、見栄の張り方まで手に取るようにわかる。だからこそ、噛み合わない会話が妙に息ぴったりに転がっていく。 画面の中ではキャラクターが勝ったり負けたりを繰り返し、現実では優真と柚菜が互いの嘘を一枚ずつ丁寧に積み上げていく。 「まあ、うちの彼女は人気あるからな」 「こっちもモテるし。困るくらい」 「へえ」 「へえ」 最後はほとんど同時に笑ってしまい、優真が先に筐体から手を離した。柚菜はそれを見て、勝ち誇ったふうに顎を上げる。 「で、次は何を自慢するの?」 「そっちこそ」 答えは返らない。ただ、二人とも次の対戦ボタンに自然と指を伸ばしていた。いつもの場所で、いつものように、ありもしない恋人の話をしながら。

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