「じゃあ、もうやめようか」 柚菜がそう言って、優真は小さく息をついた。教室のざわめきは遠のき、代わりに筐体の電源が落ちる低い音だけが残る。画面の光が消えると、さっきまでの熱っぽい空気まで一緒に静まった。 「恋人のふりも、勝負も」 優真が確認するように言うと、柚菜はこくりとうなずいた。 「うん。もう、張り合うの疲れたし」 「俺も」 短い返事なのに、妙に重みがあった。今までなら、ここでどちらかが茶化して終わらせていたはずだ。けれど今日は違う。逃げるための冗談を挟まなくても、隣にいられる気がしていた。 柚菜は少しだけ視線を上げる。 「でもさ、全部が嘘だったわけじゃないよね」 優真は少し考えてから、静かに答えた。 「うん。嘘だったのは、相手がいるって言ったところだけじゃない気がする」 「何それ」 「柚菜にだけは、本当のことを言うのが恥ずかしかった」 その言葉に、柚菜は目を丸くしたあと、困ったみたいに笑った。 「それ、ずるい」 「そっちもな」 「私は最初から、優真にだけは見栄張ってたし」 「知ってた」 「最悪」 「でも、そういう柚菜のほうが、ずっと柚菜らしかった」 言ってから、優真は少し照れた。柚菜も同じだったのか、耳まで赤いのを隠すみたいに顔をそらす。 それでも、離れなかった。 店を出ると、夜の空気は少しだけ冷たかった。けれど、歩き出した足取りは不思議と軽い。並んだ影が、昔から知っている形のまま、少しだけ近い。 「ねえ、優真」 「何」 「これからは、ちゃんと一緒にいようよ」 それは恋人の宣言でも、勝負の続きでもなかった。もっと素朴で、もっと逃げられない言葉だった。 優真は一度だけ空を見上げ、それから柚菜の横顔を見た。 「うん。一緒にいたい」 柚菜は驚いたように瞬きをしたあと、今度はちゃんと笑った。 「じゃあ、幼馴染は終わり?」 「終わりじゃないだろ」 「じゃあ何」 優真は少しだけ間を置く。電源の切れたゲーム機みたいに、静かで、でも確かに切り替わる瞬間があった。 「始まり、かな」 柚菜は何も言わず、ただ少しだけ歩幅を合わせた。ふたりの影が夕暮れの道で重なっていく。その変化を、どちらもまだはっきりとは呼べないまま、ただ静かに受け入れていた。
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学校帰りに毎日会ってゲームをする幼馴染の二人が、それぞれ恋人がいるふりをして見栄を張り合っていたが、実はどちらも恋人がいなかった。互いに気を惹くための嘘が積み重なり、やがて恋愛や大人の話題で競い合うコメディへ発展し、最後は二人が本音を打ち明けて関係が変わる。
