エラベノベル堂

幼馴染の見栄恋

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9章 / 全10

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「……もう、いいかもしれない」 柚菜の声は小さかったのに、優真にはやけに大きく聞こえた。 教室のざわめきは相変わらず遠くで揺れている。けれど、二人の間だけは薄い膜が張ったみたいに静かだった。優真は思わず笑いそうになって、でも笑えなかった。 「何が」 「勝負。恋人のふり。見栄張るの。全部」 柚菜は机の端を見つめたまま、少しだけ唇を噛む。 「私、最初は優真に負けたくなくて言ってた。でも、途中からそれだけじゃなかった」 優真は言葉を返せず、ただ彼女を見た。柚菜はいつもみたいに強がっているのに、今日はその強がりが薄い。崩れかけた紙みたいに、触れればすぐ本音がのぞきそうだった。 「私ね」 柚菜が続ける。 「勝負してる間、ずっと思ってた。本当に話したいのは、他の誰かのことじゃなくて、優真のことなんだって」 優真の胸が、不意に熱くなった。 周囲に隠していた大きな嘘は、もう持たない。そう気づいた瞬間、今までの張り合いがひどく遠回りだったように思えた。恋愛の経験を盛ることより、見栄を積み上げることより、ただ相手の顔色を見ていたかっただけなのだと、今ならわかる。 「俺も」 自分の声が思ったよりかすれて、優真は少し目を逸らした。 「そういうの、あった。勝ちたいとか、上に見られたいとか、いろいろ言ってたけど、結局は柚菜にだけは、変に格好つけたくなかった」 柚菜が顔を上げる。驚いたような、でもどこか納得したような目だった。 「じゃあ、ずっと」 「うん」 優真は短くうなずく。 「本音を言うなら、勝負そのものより、柚菜にだけはちゃんと話したかったんだと思う。嘘で笑わせるより、こっちのほうがずっと楽だった」 柚菜はしばらく黙っていたが、やがてふっと息をこぼした。 「なにそれ。今さらすごくずるい」 「ずるいのはそっちもだろ」 「私は最初からずるかったし」 「堂々と言うなよ」 言い合いになったはずなのに、もう熱はない。あるのは、隠しきれなかったものを見せ合ったあとの、妙にくすぐったい静けさだけだった。 柚菜は机に置いた手をそっと握り直す。 「でも、よかった」 「何が」 「私だけじゃなかったこと」 優真はそれを聞いて、やっと肩の力を抜いた。ずっと一人で空回りしていたわけじゃない。その事実だけで、胸の奥の引っかかりが少しだけほどける。 「……次、どうする」 優真がそう尋ねると、柚菜はすぐには答えなかった。代わりに、困ったみたいに笑う。 「次って、何の次」 「さあ」 「そういうところ、ずるい」 柚菜はそう言って、視線をそらしたまま、ほんの少しだけ口元を緩めた。優真もつられて笑う。 張り合うための言葉は、もう十分だった。残ったのは、相手にだけ向けたい本音だけだった。

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