「それで、心菜」 桜奈が、少しだけ声を落として言った。多目的室の片づけはひと区切りついたのに、心菜は包みを抱えたまま、まだ立ち尽くしていた。 「うん?」 「この騒ぎ、ほんとは心菜が忘れ物したって分かってたから、みんなで気をつけてたんだよ」 心菜は目を瞬いた。桜奈は少しだけ肩をすくめる。 「変に見えないように、わざと話題をずらしたり、探すふりしたり。結莉も先生にそれとなく聞いてくれたし」 結莉は困ったように笑って、視線をそらした。 「心菜が気にしすぎて、ひとりで抱え込むほうが心配だったから」 胸の奥が、じんと熱くなる。自分だけが必死に隠していたと思っていたのに、最初から何人もの手が伸びていた。そのことが、恥ずかしくて、ありがたくて、どうしようもなく顔が熱い。 「……そんなの、ずるい」 思わず漏れた声は、小さく震えていた。桜奈が吹き出し、結莉もふっと表情をゆるめる。 「ごめん。でも、あのまま心菜が一人で焦ってるより、少しはましでしょ」 心菜は包みを胸に寄せ、熱くなった頬を隠すようにうつむいた。 「うん。ほんとに、ありがとう」 言葉にすると、喉の奥につかえていたものが少しだけ流れていく。秘密を明かしたことで、何かが終わると思っていたのに、むしろ教室の距離が近づいた気がした。からかいではなく、気遣いで支えられていたことが、今になってようやく分かる。 先生が手を止めて、三人の様子を見た。 「確認は終わったか」 心菜は顔を上げ、はい、と答える。すると桜奈が、包みを見ながらぽんと手を打った。 「じゃあさ、次は忘れ物しない約束、しようよ」 「約束?」 「うん。困ったら一人で抱えない。見つけたらすぐ言う。隠し事より、助け合い優先」 結莉が静かに頷く。 「心菜だけじゃなくて、私たちもね」 心菜は一度だけ瞬きをした。忘れ物をしないことより、そっちのほうがずっと大事かもしれない。胸の奥で小さく結んでいた不安が、少しずつほどけていく。 「……うん。約束する」 その返事に、桜奈は満足そうに笑った。心菜は包みを抱え直し、三人で並んで装置の片付けへ戻る。さっきまで重たかった空気はもうない。代わりに、いつもより少しだけ近い距離で、次の作業へ向かう静かな足音だけが続いていた。
検閲済みプロット
プールの授業がある日、女子生徒が水着を制服の下に着て登校してくる。授業後に着替え用の下着を忘れたことに気づき、残りの授業をどう切り抜けるかで慌てる学園ラブコメ。階段や高所の掃除など、周囲の視線や偶然のトラブルに振り回されながら、友情と秘密が交錯する展開にする。
