エラベノベル堂

忘れ物より大事な約束

全年齢

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9章 / 全10

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放課後の廊下は、昼間より少しだけ静かだった。心菜は委員会の書類を抱えたまま、桜奈と結莉と並んで多目的室へ向かう。そこで待っていたのは、学校行事の準備で運び込まれた舞台装置の山だった。黒い布、木枠、色のついた板。ひとつひとつはただの道具なのに、並ぶと妙に大きな秘密のように見える。 「最後に、ここの確認お願いできる?」 先生にそう言われ、心菜は思わず姿勢を正した。任されたのは、装置の位置と固定具の確認だった。細かい作業は苦手じゃない。けれど、物が重なり合っているせいで足元は見えにくく、誰かが動けばすぐ順番が変わる。心菜はメモを手に、桜奈と結莉の動きを頼りに一つずつ見ていった。 途中、奥の棚に積まれた板がずれて、軽い音を立てた。心菜が身を引くと、桜奈がすぐ支え、結莉が別の板を押さえる。 「大丈夫。ここ、ちょっと不安定なだけ」 「うん、あそこを先に見よう」 二人の声に導かれて、心菜は確認を続けた。そのとき、舞台袖に置いてあった小さな包みが目に入る。見覚えのある布の端。心菜の胸が、ひゅっと縮んだ。近づいて確かめると、それは確かに自分が探していた大切な持ち物だった。 「これ……」 声がかすれる。どこを探しても見つからなかったものが、こんな場所にあった。しかも、封がゆるく開いていて、中身がばらけないよう丁寧にまとめ直されている。心菜は思わず立ち尽くした。 「見つかった?」 結莉が問いかけ、心菜はうなずくことしかできなかった。桜奈は少しだけ目を見開いてから、すぐに周囲を見回し、誰かが気づきそうな気配を確かめる。 「よかった。これで、あとは片づけに集中できるね」 そのひと言で、心菜の肩から力が抜けた。これまで何度も揺れた秘密が、ひとつ見つかるだけでこんなに静かになるなんて思わなかった。探していたものは、ずっと手の届くところにあったのかもしれない。そう思うと、胸の奥にたまっていた焦りが少しずつほどけていく。 先生が振り返り、確認はどうだと尋ねる。心菜は包みを抱え直し、震えそうになる声を飲み込んで、はい、と答えた。多目的室の空気は、さっきまでよりずっと落ち着いている。けれど、その静けさの中で、心菜はまだ気づいていない。どうしてそれがここにあったのか、その理由は、まだ奥に残されたままだった。

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