「はあ……やっと終わった」 更衣室のベンチに座り込み、舞は大きく息を吐いた。午前中のプール授業は思いのほかハードで、全身が鉛のように重い。冷房の効いた室内で濡れた水着が肌に張り付き、鳥肌が立つのを感じた。 「早く着替えなきゃ」 立ち上がってロッカーを開け、制服を取り出す。白いブラウス、チェックのスカート、そして——。 「あっ」 舞の手が止まった。ブラウスの下に、履くはずのショーツがない。 「嘘……どうして」 慌てて鞄の中身をぶちまける。筆箱、教科書、財布。ない。どう考えても忘れてきた。面倒だからと言って、水着を着て登校するんじゃなかった。 「朝、洗濯したてのを干して……そのままだったんだ」 顔から血の気が引いていく。濡れた水着を履いたまま過ごすわけにはいかない。不快感はもちろん、透けて見えてしまうかもしれない。かといって、何も履かずにスカートだけ——。 「そんなの無理だよ」 舞は震える手でスカートを握りしめた。誰かに借りる? そんなこと頼めるわけがない。 「ねえ、誰かショーツ貸して」 なんて言ったら、変な目で見られるに決まっている。更衣室にはもう誰もいない。みんな先に教室へ戻ってしまった。窓の外から、遠くでチャイムが聞こえた。 「次の授業、始まっちゃう」 舞は唇を噛んだ。選択肢は二つだけ。濡れた水着を履いて不快な一日を過ごすか、何も履かずにスカートだけで過ごすか。 「スカート、長いし……座ってればバレないよね」 祈るような気持ちで、舞は濡れた水着を脱ぎ捨てた。肌に当たる空気が、いつもと違ってスースーする。 「これ、本当に大丈夫かな」 不安と、胸の奥でくすぶる得体の知れない感覚を抱えたまま、舞は制服を身につけ、更衣室を後にした。
忘れ物より大事な約束
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