休日の昼の居間には、休日らしいゆるやかさが満ちていた。カーテン越しの光が床に広がり、テーブルの上では湯気の消えかけた茶が静かに揺れている。正樹は少しだけ背筋を伸ばし、向かいに座る美樹とその夫へ、改まったように頭を下げた。 「この前から、何度もお世話になって、本当にありがとうございました」 言い終えた途端、耳まで熱くなる。だが、言わなければずっと喉につかえている気がした。美樹は一瞬きょとんとし、それから肩の力を抜いたように笑った。 「そんなにかしこまらなくていいのに」 夫も湯呑みを置き、穏やかな目で正樹を見る。 「礼を言うのは悪くない。だが、あれで終わりにするつもりはないんだろう」 「はい」 正樹はすぐに答えた。あの騒ぎは、ただの気まぐれでも、冗談でもなかった。自分が本気で勉強して、その結果を見てもらえたこと。美樹が約束を守り、夫まで含めて見守ってくれていたこと。その全部が、胸の奥で静かに重なっていく。 「ちゃんと家族ぐるみで見られてたんですね」 ぽつりと漏らすと、美樹が吹き出した。 「今さら気づいたの」 「だって、あんな形になるとは思わなくて」 「でしょ。だから言ったじゃない、次はもっと健全な願いにしてって」 からかうような声なのに、目元にはやわらかな笑みが残っていた。正樹は観念してうなずく。 「……次は、そうします」 「次があるならね」 「あります。というか、あります」 即答すると、美樹は面白そうに目を細めた。夫はそんなやり取りを見て、くすりと笑う。 「勉強の方なら、いくらでも続けていい。結果はまた見せに来なさい」 その言葉に、正樹の胸の奥がじんと温かくなる。見守られていたのは、あの一件だけではなかったのだろう。テストの前から、夜遅くまで机に向かう姿も、気まずくなりながらも逃げなかったことも、全部この家の中でちゃんと見られていたのだ。 「俺、これからも勉強を続けます。次はもっと、ちゃんと自分の力で」 言い切ると、美樹は満足そうにうなずいた。 「それがいいわ。変な願いに頼らなくても、ちゃんと進めるようになりなさい」 「はい」 「じゃあ、記念にこれで終わり、ってことでいいかしら」 「ええ、十分よ」 夫の低い声が部屋の空気をまとめるように響いた。正樹は深く息を吐き、ようやく肩の力を抜く。窓の外では明るい昼の光が揺れ、居間には奇妙な騒動のあととは思えないほど、あたたかな静けさが戻っていた。 美樹は湯呑みを手に取り、少しだけ意地悪く笑う。 「それにしても、ほんとに大変だったわ。だから次はもっと健全な願いにして」 正樹は赤くなりながら、それでもまっすぐうなずいた。 「はい。約束します」 その返事に、美樹は小さく笑った。思いがけず温かいまま、休日の昼は静かに深まっていった。
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近所で幼いころから面倒を見てきた高校生男子の家庭教師をすることになった若い既婚女性(茶髪ウェーブ)が、勉強を頑張らせるためにテストで良い結果を出したら一つ願いをかなえると約束する。男子は奮起して高得点を取り、願い事として学生時代の制服と当時使っていた水着を着てほしいと頼む。女性は恥ずかしさを覚えつつも応じるが、サイズが合わずに窮屈で、見た目の変化に周囲が大いに慌てるコメディ。
