エラベノベル堂

願いは旧制服

全年齢

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2章 / 全10

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夜が窓の外をじわじわと濃くしていた。正樹は自室の机に向かい、ノートを開いたまま深く息を吸う。机の上には、昼間までの眠気を追い払うために並べたシャーペンと参考書、そして美樹から渡された小さなメモが置かれていた。そこに書かれた言葉は短い。ただ、それだけで背中を押された。 本気でやる。そう決めると、さっきまで重たかった指先が少しだけ軽くなった。約束をした以上、逃げるのは違う。良い結果を出せば、願いを一つ聞いてもらえる。その事実が、ただのご褒美以上に胸を熱くした。正樹はページをめくり、苦手な問題に線を引く。解けないまま放り出していた式も、今日は最後まで食いつくつもりだった。 しばらくして、控えめなノックがした。返事をすると、美樹が湯気の立つマグカップを手に入ってくる。 「集中してるみたいね」 「はい。ちゃんとやらないと」 「その顔なら大丈夫そう」 そう言って彼女は机の端に飲み物を置いた。甘さのある香りが広がり、張りつめていた空気が少しだけやわらぐ。正樹は礼を言ってカップを手に取った。温かさが喉を通るたび、頭の中の霧が薄くなる気がした。 美樹は対面に腰を下ろし、問題集の進み具合をのぞき込む。答え合わせをすると、さっきまで曖昧だった箇所が少しずつ形になっていった。間違いを指さされるたび、正樹は悔しそうに眉を寄せるが、すぐに次の一問へ向かう。その素直さが、美樹には少し頼もしかった。 「焦らなくていいけど、止まらないこと」 「はい」 「わからなくなったら、そこで立ち戻ればいいの」 「……わかりました」 時計の針が進むにつれ、部屋の空気は静かに変わっていった。最初は机に向かうだけで精一杯だった正樹が、途中からは自分で考えて手を動かすようになる。美樹もまた、ただ見守るだけではなく、必要なところでだけ言葉を差し込む。そのやり取りは淡々としているのに、どこか息の合ったものになっていた。 ふと、正樹が鉛筆を置いて伸びをする。肩のこわばりは残っているが、表情は最初よりずっと前向きだった。 「手応え、少しあります」 「なら良かった」 美樹はそう答えたあと、わずかに目を細めた。良い結果を出したら願いを一つ。あの軽い約束は、もう冗談では済まない重さを持ちはじめている。正樹もそれを理解したのか、ノートを見つめる目に妙な真剣さが宿っていた。 「本番、緊張しますね」 「するわよ。だから今のうちに、できるだけ整えておくの」 「はい。絶対に、いい点を取ります」 その言葉に、美樹は小さくうなずく。窓の外にはすっかり夜が広がり、部屋の中には机灯の明かりだけが残っていた。テスト本番はもうすぐそこまで来ている。その気配が、二人の間に静かな期待と緊張を同時に落としたまま、夜をさらに深くしていった。

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