翌週の朝、通学路の空気はひんやりとしていた。正樹は肩にかけた鞄の重みを感じながら、校門へ向かう足を早める。夜まで机に向かった日々の感覚がまだ体に残っていて、眠気よりも妙な高揚が先に立っていた。今日はテスト当日だ。あれだけ詰め込んだのだから、あとは落ち着いて解くだけだと自分に言い聞かせる。 教室に入ると、いつものざわめきが耳に飛び込んできた。机を叩く音、紙の擦れる音、誰かのため息。けれど正樹はそれに飲まれなかった。席につき、筆記用具を並べ、深く息を吐く。開始の合図が鳴ると、最初のページを開いてすぐに集中がすっと定まった。美樹に見てもらったときに何度もやり直した問題が、目の前で順番に形を変えていく。焦りはある。それでも、解ける問題から一つずつ拾っていけばいい。そう思えるだけの手応えがあった。 午前の試験は思ったより長く感じなかった。苦手だった箇所でも手が止まる時間は短く、見直しにも余裕があった。答案を提出するたびに胸の奥が少し熱くなる。終わった教科の感触を確かめるように、正樹は休み時間ごとに次の科目へ気持ちを切り替えた。いつもなら途中で空回りしていた集中力が、今日は途切れない。最後の問題を書き終えた瞬間、ようやく肩の力が抜けた。 放課後、校門の前には夕方の風が流れていた。生徒たちがそれぞれの帰り道へ散っていく中、正樹は少しだけ急いで美樹の姿を探した。待っていた彼女は、いつもの穏やかな顔でこちらを見つけると、小さく手を上げる。 「どうだったの」 正樹は鞄から答案を取り出し、息を整えてから差し出した。 「見てください。かなり、手応えあります」 美樹は紙面を受け取り、順に目を走らせる。最初は確認するように静かだった表情が、得点欄に近づくにつれてわずかに変わった。思っていた以上の数字が並んでいたのだろう。彼女は答案を持つ指先に力を込め、それから顔を上げた。 「……本当に、ちゃんと出したのね」 「はい。約束、守りました」 美樹は少しだけ目を細める。あの軽い約束が、ただの冗談では済まなくなったことを、二人ともはっきり理解していた。 「ええ。ここまで来たなら、ちゃんと願いを聞くわ」 正樹はうなずいたまま、どこか落ち着かない様子で視線を泳がせる。報告は終わったのに、そこから先の言葉がまだ来ない。美樹もまた、次に口にされる願いの内容を思って、息をひそめるように立ち尽くしていた。
願いは旧制服
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