朝の光が障子越しにやわらかく差し込み、華澄は湯上がりとは違う、じわりとした赤面を抱えたまま箸を持った。昨夜のことを思い出すたび、耳の先が熱くなる。女湯での勘違い、休憩室での弱音、自分だけが大騒ぎを起こしたような気恥ずかしさが、一気に胸へ戻ってきたのだ。 「おはよう、華澄ちゃん。顔、まだ赤いよ」 向かいに座った先輩が、味噌汁をすすりながら楽しそうに言う。別の同僚も、箸を止めて肩を揺らした。 「昨夜の華澄ちゃん、真面目な顔で一番迷ってたからね」 「でも、助けを呼べてえらい。あのまま一人で突き進まれたら、こっちのほうが心臓に悪かった」 からかいは軽く、けれどどれも棘がない。華澄は湯気の立つ椀を見下ろし、恥ずかしさに縮こまりかけた肩を、そっとゆるめた。笑われるのは怖いと思っていたのに、今は違う。自分の失敗ごと受け止めてもらえるなら、それはもう責められることではない。 「……次からは、ちゃんと先に言います」 小さくそう言うと、先輩が満足そうに頷いた。 「うん、それがいい。見えないなら見えないで言ってくれたほうが、ずっと早い」 「困ったら頼る。これ、今回の旅行の収穫だね」 誰かがそうまとめて、卓の上に笑いが広がる。華澄もつられて、少しだけ口元を緩めた。眼鏡の奥で世界ははっきりしている。けれど本当に見えたのは、昨夜から続く同僚たちの気配だったのかもしれない。気を張って隠していたものが、意外なところで絆に変わっていた。 食事がひと段落すると、出発までの支度を思わせる落ち着いた空気が会場を満たした。華澄は湯呑みを両手で包み、もう一度だけ、周囲の顔を見回す。もう浮いている気はしない。恥ずかしい事件は、予想外にあたたかな終わり方をした。彼女は胸の奥で静かに頷き、次に困ったときは、ためらわず声を出そうと決めた。
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新人OLの女性が、会社の慰安旅行で職場の人たちと一緒に貸し切り旅館へ温泉旅行に来る。視力がとても悪く、ほろ酔いで夜に女湯へ向かった彼女が、見えにくさと勘違いから思わぬ騒動に巻き込まれる。羞恥と混乱をきっかけに、仲間との距離感が少しずつ変化していくコメディ。
