エラベノベル堂

湯けむり眼鏡騒動

18+ NSFW

小説ID: cmp2dbklk003201o9buwig09q

1章 / 全10

旅館の大広間には、笑い声と宴会の熱気が渦巻いていた。畳の上には宴席が設えられ、会社の慰安旅行にやって来た社員たちが青い座布団に座り、呑んだくれている。 「美奈ちゃん、これ飲んで飲んで!」 「え、まだ飲むんですか? もう頭ん中ぐるぐるしてますよぉ」 眼鏡の奥で少し潤んだ瞳を瞬かせながら、美奈は困ったように笑った。浴衣の襟が少しずれてしまっていることにも、彼女は気づいていない。入社してまだ半年の新人OLだ。普段は事務の仕事を真面目にこなす彼女だが、今日は上司や先輩たちに勧められるまま、日本酒をぐびぐびと飲まされていた。 「ほら、旅館の日本酒は美味いぞ」 「あはは、確かに美味しいですけど……もう限界かも」 「何言ってんだ! まだ始まったばかりだろ」 課長の明彦が陽気に笑い、美奈のぐい吞みにまた透明な液体を注ぐ。とろりとした芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。 「課長、これ以上飲んだら温泉に行けなくなっちゃいます」 「ならないならない! 酔い覚ましに温泉だろ」 同僚の蒼空も隣から口を挟み、美奈の肩を軽く叩く。美奈はへらへらと口元を緩ませ、注がれた酒をまた一口含んだ。熱が腹の中に広がり、顔が火照るのがわかる。 「ん〜、ふわふわしてきちゃった」 視界が少し滲んで見える。眼鏡をかけていても、度の強いレンズ越しの世界が揺らいでいるようだった。 「あ、温泉行こっと」 美奈はふと思い立ったように座布団から腰を浮かせた。しかし、足に力が入らない。立ち上がろうとした瞬間、膝ががくんと折れ、彼女はそのまま座布団にぺたりと尻を落としてしまった。 「あははは、立たないよぉ」 「美奈ちゃん、大丈夫か?」 「だいじょーぶです! あはは」 誰かがまた彼女のぐい吞みに酒を注いでいる。美奈はそれを抵抗もせず受け入れ、とろんとした目で宴会の喧騒を眺めていた。

1章 / 全10

TOPへ
湯けむり眼鏡騒動 | エラベノベル堂