エラベノベル堂

異世界受付と開かずの金庫

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2章 / 全10

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「これ、どういうことですか」 私は受付の前で札を握りしめたまま、できるだけ落ち着いた声を探した。けれど返ってくるのは、耳慣れない音の列ばかりだった。相手は眉を上げ、別の言葉で何かを説明しようとする。たぶん親切なのだろう。だが意味が取れない。頷くべきか首を振るべきかさえ、遅れてしか決められなかった。 広間には人の出入りが絶えず、靴音、笑い声、金属の触れ合う音が渦のように重なっていた。そのどれもが、私には舞台の雑音みたいに聞こえるだけで、肝心の台本は見当たらない。私は札の文字にもう一度目を落とし、理解できるはずのない記号の中から、ひとつだけ浮かび上がる単語を追った。話術。やはり間違いではない。間違いなのは、これが役に立つ場面の方だった。 受付係は棚から紙束を取り出し、何枚かを机に広げた。指先で示されたのは、依頼書らしい。私が覗き込むと、見出しの一部だけはさすがに判読できた。開かずの金庫。その文字を見た瞬間、胸の奥で冷たいものが落ちる。あの罰ゲームの続きが、形を変えてまだ残っているらしい。紙面には、古い封印だの、通じぬ相手だの、嫌な言葉が散っていた。意味は半分ほどしか掴めないのに、不穏さだけは妙に鮮明だった。 私は無意識に指先で机を叩いた。受付係はそれを確認の合図だと受け取ったのか、少し身を乗り出して早口で続ける。途中で分かるのは、森、集団、交渉、そのくらいだ。相手が人ではないらしいことも、どうやら直接ぶつかる仕事ではないことも、断片だけで察しがつく。言葉が通じない相手と向かい合え、という意味だけははっきりしていた。 「話せ、ってこと?」 自分で言って、自分で苦笑する。通じるはずのない独り言だったが、受付係は少しだけ安心したようにうなずいた。たぶん、雰囲気だけで十分なのだろう。私は依頼書を持ち上げ、掲示板の前へと視線を移した。紙がびっしり貼られた木の板の中央に、同じ記号が別の形で刻まれている。私の役目はそこへ行き、誰かと話をつなぐことらしい。 言葉は分からない。けれど、分からないまま始めるしかない。私は登録証を胸元に握り直し、受付係の曖昧な手振りに合わせて、広間の出口へ向けて一歩を踏み出した。

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