エラベノベル堂

青い迷宮の落とし穴

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1章 / 全10

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柚乃は深く息を吸って、頭の上の青い魔法帽をそっと押さえた。夜の冷えが残る空気の中で、マントの端がわずかに揺れる。まだ薄暗い石造りの入口は、眠っている獣の口のように黙っていたが、その静けさがかえって胸を高鳴らせた。今日こそ一人で奥まで行くのだと思うと、怖さよりも先に、ずっと準備してきた時間の重みが指先まで熱を運んできた。 「よし、行ける」 小さくつぶやいて、柚乃は腰の位置を整えた。杖の握りは確かで、簡単な火球と風の魔法なら何度も練習した。仲間に見守られながらではなく、自分の判断だけで進むのは初めてだ。それでも足取りは意外なほど軽い。入口の先へ踏み込むと、石壁が外の気配をすっと飲み込み、靴音だけが自分のものだとわかる。孤独は心細いはずなのに、今は不思議と頼もしかった。 最初の小部屋に入った瞬間、天井近くの暗がりがばさりと揺れた。続いて、薄い羽音がいくつも重なる。柚乃が顔を上げるより早く、弱々しいコウモリ型の魔物が数体、輪を描くように飛び出してきた。けれど、数はいても動きは鈍い。彼女は驚きこそしたものの、すぐに口元を引き締める。 「そんなの、通せんぼにもならないよ」 掌に淡い光が集まり、温かな火球がひとつ、空中へ跳ねた。小さな爆ぜる音とともに、魔物たちは慌てて散る。続けて柚乃は風の魔法を重ね、羽ばたきを乱した。見えない手で押し返されるようにバランスを崩したコウモリたちは、壁際へ弾かれ、次々と地面へ落ちていく。火球の熱も、風の一押しも、どちらも基礎の術に過ぎない。それでも、ひと息で片が付いた。 柚乃は消えゆく魔物を見下ろし、思わず頬をゆるめた。拍子抜けするほどあっさりしていたが、その軽さが逆にうれしい。恐る恐る覗いた未知の入口は、今や自分の手で切り開けるものに見えていた。青いマントの裾を整えながら、彼女は一歩、さらに奥へと視線を向ける。まだ始まったばかりだというのに、胸の奥ではもう次の扉を開けたくてたまらなかった。

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