柚乃は薄い毛布を肩まで引き上げたまま、仮設治療所の簡素な寝台に座っていた。白い布で仕切られた空間は落ち着くはずなのに、誰かが器具を置く小さな金属音だけで背筋が跳ねる。次いで布がこすれる気配がしただけで、柚乃は反射的に肩をすくめ、杖のない手を空に伸ばしかけた。 「だ、大丈夫だよ」 そう言おうとして、声が裏返る。治療係の手つきはやさしいのに、柚乃の身体だけが置き去りにされたみたいに過敏だった。コップが卓に触れる音がした瞬間、彼女は思わず息を呑み、周囲の視線が一斉に集まった気がして顔を伏せる。 その向かいで、救助に向かった仲間たちが、ほっとしたように顔を見合わせていた。無事だった安堵が先に立っているのだろうが、すぐに表情が緩み、ひとりが 「いや、あの場面は肝が冷えた」 と笑うと、別の者も釣られて肩を揺らした。 「救援信号は出せる、封印も揺らせる、でも寝台の上ではコップひとつで大騒ぎか」 からかう声に、治療所の空気が少しだけ明るくなる。柚乃は恥ずかしさで耳まで熱くしながらも、咎める気にはなれなかった。自分でも、あの深い静けさの中で積み上がった緊張が、こんな形で残るとは思っていなかったからだ。 「笑わないでよ……」 抗議は弱々しく、誰の耳にも優しく届く程度だった。それでも、仲間たちの笑いは意地悪ではない。生きて戻れたからこそ出る、少し軽い笑いだった。柚乃は毛布の端を握りしめ、やっとそこで、胸の奥にあった重い石のような感覚が本当に下りていくのを覚えた。 二度と、あんなふうに油断しない。落とし穴も、封印も、感覚の異変も、次は最初から見誤らない。柚乃は強く息を吸い、まだびくつく肩を無理やり落ち着かせた。周囲の笑い声を背に受けながら、彼女は静かに、そして固く誓う。 今度は、笑い話のままで終わらせるために、最初から全部を確かめて進む。
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魔法使いの少女が単身でダンジョンを探検する冒険コメディ。最初は弱い敵だけを順調に魔法で倒していくが、油断して落とし穴に落ち、到着した部屋では魔法が無効になる。そこへ不思議な青いスライムが現れ、感覚を強く乱す混乱に巻き込まれた彼女が、数日後に救助されるまでの騒動を描く。最終的に、ちょっとした刺激にも過敏に反応してしまうほど神経が研ぎ澄まされてしまった彼女が、今後の冒険に不安と決意を抱くコメディ。
