柚乃は紐を握ったまま、喉の奥で何度も息を整えた。青いスライムは排気孔のあたりに居座り、ふるえるたびに床へ落ちる影を濃くする。そこへ小さな反射が走るたび、封印の残りがきしむように脈打った。 「今なら……」 呟きは自分の耳にも頼りなく聞こえた。それでも、ここで止まればまた感覚に飲まれる。柚乃はしゃがんだ姿勢のまま、短い紐の先を石の縁へ滑らせる。金具が引っかかる手応えを探しながら、青い揺らぎの動きを見た。スライムがふるえ、孔を塞ぐ角度をわずかに変える。その瞬間、隙間からひんやりした風が漏れた。 それはほんの一筋だったが、柚乃には十分だった。彼女はその流れに合わせ、紐を一気に引く。石に当たった金具が高くも低くもない、乾いた音を立てた。音と同時に、壁の奥で細い響きが連なり、これまで閉ざされていた力場が一段だけ崩れる。 部屋の空気が、目に見えて軽くなった。 柚乃は息を呑み、すぐに次の動きへ移る。封印の一部が外れたことで、排気孔へ通る風が少し強まったのだ。青いスライムも、その変化に気づいたように揺れを大きくする。だが今度は、柚乃のほうが先に仕掛けを動かせた。紐を引く、肩をずらす、床を蹴る。慣れない体術でも、何度も失敗の中で覚えた感覚が身体を導く。 もう一度、反射が走った。今度はレリーフではなく、床面の一角が鈍く白く返る。柚乃の小さな手ごたえが積み重なり、封印の圧が少しずつ細る。外から聞こえるはずのない気配が、遠くで応じるように揺らいだ。 その変化の先に、かすかな人の声が重なった気がした。 柚乃ははっと顔を上げる。強くなった風の向こうで、救助隊の灯りが石壁に揺れていた。長く張りつめていた神経が、一気にほどける。引き渡される直前だというのに、胸の奥には安堵よりも、触れられるだけで飛び上がりそうな自分への情けなさが先に立った。 肩が震える。わずかな風の流れまで肌を刺すように感じる。助かったとわかった途端、今まで押し込めていた緊張があふれ出し、手の先も頬も自分のものではないみたいに過敏だった。 「……うそ、でしょ」 か細く漏れた声は、情けないほど小さい。柚乃は思わず両手で顔を覆った。救助隊の気配はすぐそこで、もう自分を引き取るだけなのに、この反応ではまともに顔も上げられない。長かった夜の重みが、そのまま羞恥に変わって肩へ落ちてきた。
青い迷宮の落とし穴
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