エラベノベル堂

湯上がり勘違い夜話

全年齢

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2章 / 全10

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「この地酒、思ったより飲みやすいな」 亮が徳利を傾けると、淡い香りが卓の上にふわりと広がった。個室の宴会場は、昼間のにぎやかさが嘘みたいに静かで、障子越しの明かりが四人の顔をやわらかく照らしている。 「亮、それさっきから三回目。飲みやすいって言い方、もう酔ってる人のそれなんだけど」 結衣が笑うと、恭平がすかさず肩を寄せた。 「三回目でも、こいつはたぶんまだ序の口だろ」 「何その言い方。じゃあ恭平は強いの?」 奈緒が問うと、恭平は少しだけ胸を張る。 「俺はまあ、いけるほう」 「いける、ねえ」 亮がにやりと口元を上げた。 「さっきから結衣のこと見てる回数のほうが多いのに?」 「なっ」 「はい、出た」 結衣が笑い転げると、奈緒も肩を震わせた。卓の上には料理がきれいに並び、湯気の残る皿と、色の違う小さな盃が並ぶたび、誰かの声が一段高くなる。ひと口ごとに頬が熱を帯びていくのがわかって、それがまた妙に楽しい。 「奈緒だって、翔太のほうばっか見てたよな」 「見てないし」 「見てた」 「見てないってば」 「見てたよな、翔太」 亮がわざと真顔で振ると、翔太は苦笑いした。 「そりゃ、隣にいたら見るだろ」 「ほら、自然にいちゃいちゃする」 「いちゃいちゃって言うな!」 今度は結衣まで机を叩いて笑った。酒のせいなのか、茶化し合いのせいなのか、どちらにしても空気は軽かった。誰かが箸を置く音、盃を置く音、笑いが重なるたび、四人の距離はますます曖昧に近づいていく。 「ねえ、もう一杯だけ」 結衣が頬を赤くして言うと、奈緒もつられて頷いた。 「私も。なんか、今日すごく楽しい」 「そりゃそうだろ。こんな面白い連中と一緒なんだから」 亮はそう言って自分で笑い、次の瞬間には少しだけ言葉がゆっくりになっていた。 翔太がその様子を見て吹き出す。 「お前が一番やばいじゃん」 「やばくない。まだいける」 「それがもうやばい」 結衣は徳利を持ち上げて、にやっとした。 「じゃあ最後に、明日の観光の相談しようよ。朝、ちゃんと起きられたらね」 「起きる。絶対起きる」 奈緒が即答すると、翔太がうなずく。 「山の景色、見に行くんだろ。温泉も朝風呂もあるし、ちゃんと楽しみたい」 「うん。だから今日は、このくらいで終わりにしとく?」 亮は名残惜しそうに盃を見つめたあと、ふっと息を吐いた。 「お、珍しくまともな意見」 「珍しくは余計だよ」 笑いながらも、誰も反対しなかった。顔は少し火照っているのに、心地よいだるさが胸の奥に落ち着いて、立ち上がる動きさえゆっくりになる。 部屋へ戻る道すがら、結衣が小さく肩を揺らした。 「ねえ、明日もちゃんと覚えてるかな」 「さすがにそこまでは忘れないだろ」 翔太が答えると、奈緒がくすくす笑う。 「でも、今の亮見てるとちょっと不安」 「不安にするなよ」 そんな声が廊下に溶けて、四人は畳の部屋に戻った。布団をどうするかを適当に決めながら、誰かがまた明日の話をする。行き先、朝食、風呂、どれもまだ楽しみのままで、言葉はだんだん短くなっていった。 「じゃあ、おやすみ」 「おやすみ」 「明日、起こしてね」 「任せて」 最後に残ったのは、誰かの笑い声と、眠気に負けていく気配だけだった。

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