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湯上がり勘違い夜話

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3章 / 全10

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暗くなった部屋に、呼吸の音だけが落ちていた。誰かが布団の中で小さく寝返りを打つたび、畳のきしみがかすかに鳴る。亮はその音で、ふっと意識の底から浮かび上がった。 「……ん」 喉が乾いている。体はまだ重いのに、さっきまで沈んでいた酔いの海から半分だけ顔を出したみたいだった。目を開けても、当然ながら何も見えない。窓の外の月明かりらしいものが、障子の隙間から薄くにじむだけだ。 隣、誰だ。そう思った瞬間、すぐ近くで寝息がした。 布団越しに伝わる体温に、妙な安心が胸を満たす。たぶん結衣だ。さっきまで隣で笑っていたし、ここにいるのも自然だ。亮はそう思い込んだまま、無意識に身を寄せた。 「……あったか」 小さくこぼれた声は、自分でも驚くほど頼りなかった。返事はない。ただ、相手が少しだけ動いた気配がある。 それでも亮は離れなかった。むしろ、布団の端を探る指先が、恋人の肩を探すみたいにゆっくり伸びる。柔らかい布地の向こうで、相手が軽く息を吸った。 その瞬間だった。 「……亮?」 低くて、少しかすれた声。結衣の声より、ひとつ深い。しかも、呼び方が違う。胸の奥が、酔いとは別の意味でひやりとした。 亮は固まった。 今、誰が、俺を呼んだ。 もう一度、確かめるように布団の向こうへ触れると、手がかりのある骨ばった手首に触れた。結衣の手つきじゃない。もっと無骨で、寝ぼけたままでもわかるくらい、男の手だった。 「え」 短い息が漏れる。暗闇の中で、隣の影がわずかに身じろぎした。 「……お前、誰だ」 相手の声が、今度ははっきりした。聞き慣れたはずなのに、寝起きの頭では名前が一拍遅れる。 翔太。 その名が浮かんだ途端、亮の背中に冷たいものが走った。 「うそだろ……」 さっきまで安心して寄りかかっていた相手は、結衣ではない。隣のカップルの男だ。しかも、自分はかなり自然に、かなり危ない距離まで近づいていた。 布団の中で二人は、同時に息を止めた。 そして、部屋の暗さは、さっきよりずっと深く感じられた。

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