温泉宿の湯気窓に映る街灯りが揺れていた。 「やっと着いたー! 千秋、足痛くない?」 颯人が大袈裟に背中をさする。 「大丈夫だってば。颯人が荷物持ちすぎなだけよ」 千秋は笑いながら彼の手を引いた。ロビーには先に到着していた柚心と結斗が待っていた。 「遅いよー。もうチェックイン済ませたから」 「え、早くない? 私たちが一番乗りだと思ってた」 柚心が小首を傾げると、結斗が得意げに胸を張る。 「柚心が部屋選びにこだわりすぎてさ。結局一番高い部屋になったけど」 「それがいいの! せっかくの旅行なんだから」 四人は揃って柚心の部屋へ向かい、卓を囲んで座った。旅館自慢の会席料理が次々と運ばれてくる。 「乾杯ー!」 日本酒の小徳利が空になるたび、新しく注文が重なった。千秋は頬杖をつき、少し目が回るのを感じていた。 「千秋、顔赤いよ。もう限界?」 「……限界じゃないもん。まだ飲める」 颯人が心配そうにグラスを取り上げようとすると、千秋はむずかる子どものように奪い返した。 「柚心ちゃんは強いねー。私も負けないから」 「負けない負けない」 結斗が茶化すように手を叩く。楽しい時間はあっという間に過ぎた。気づけば卓には空になった徳利が並び、千秋も柚心も頬を染めてふらついている。 「明日の朝は……風呂入って……朝食……」 「んー、わかったー……」 颯人の声も遠く聞こえる。千秋は畳に突っ伏したまま、まぶたが重くなるのを抗えなかった。
湯上がり勘違い夜話
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