新幹線の窓に、夜の街明かりが流れていく。美奈は膝の上で握ったままの鞄に力を込め、ガラス越しに自分の顔がぼんやり映るのを見ないようにした。車内は静かで、隣の席の神崎真人は腕を組んだまま、資料の束を斜めに押さえている。さっきから一度もため息をついていないのが、逆に怖かった。 「……次、どう動けばいいでしょう」 美奈が小さく尋ねると、真人は視線だけを紙から上げた。 「今さら迷うな。会ったらまず事実を端的に伝える。おまえが何を誤ったか、相手がどこで困るか、そこだけを整理して話せ」 「はい」 「はい、じゃない。覚えるまで言え」 「事実を端的に。私が何を誤ったか。相手がどこで困るか……」 復唱しながらも、美奈の喉はひりついた。頭の中では何度も謝罪の言葉を並べ替えているのに、どれも薄っぺらく聞こえる。何と言えば許されるわけではない。それでも、言わなければ始まらない。車輪の揺れに合わせて、胸の奥の不安だけが増していく。 真人は少しだけ顔をしかめたまま、スマートフォンの画面を伏せた。 「本当なら今日は別件が三つあった。午前中の打ち合わせに、夕方の確認、あと明日の調整もだ。全部、これで飛んだ」 「……すみません」 「謝るな。飛んだものは飛んだ」 言葉は冷たいのに、妙に疲れた響きが混じっていた。美奈は顔を上げられない。自分の失敗に引きずられて、この人の一日まで壊したのだと思うと、胃のあたりが重くなる。 「おまえが気に病むのは勝手だが、今は落ちるな。明日の朝までは保て」 「……保てるようにします」 「する、じゃない。保つ」 真人はそう言って資料を閉じた。窓の外では、街の灯りが遠ざかり、代わりに暗い田畑の影が増えていく。美奈は深く息を吸った。新幹線の揺れが、まるで心臓の鼓動を外から叩いてくるみたいだった。 謝罪の段取りを頭の中で繰り返す。最初に事実、次に迷惑をかけた範囲、そのあとで謝意。言い訳はしない。声を震わせない。逃げない。そう何度も唱えているのに、ふいに隣の真人が 「相沢」 と呼ぶだけで背筋が伸びた。 「顔を上げろ。今のおまえは、叱られる準備ばかりしている」 「……はい」 「違う。謝る準備をしろ」 その一言に、美奈はようやく小さく頷いた。窓の外には、いつの間にか知らない土地の光が点々と続いている。まだ着いてもいないのに、もう引き返せないところまで来た気がした。
謝罪出張、ふたり部屋
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