駅を降りた瞬間、夜気が思ったより鋭くて、美奈は肩をすくめた。地方都市の駅前は人の流れこそあるのに、空気だけが妙に乾いている。ホテルの灯りを頼りに歩いていくあいだ、彼女は何度も頭を下げる練習をしたが、喉はますます固くなった。 フロントには、同じように荷物を抱えた客が何組か並んでいた。真人が予約票を差し出し、短く用件を告げる。 「部屋を一室、今夜だけだ」 「申し訳ございません、周辺の宿はすべて満室でして」 「全部か」 真人の眉間に、はっきりと深い皺が寄る。美奈はその横顔を見ただけで、自分まで責められている気がして、すぐに視線を落とした。 「はい。あいにくツインも空きがなく……」 「じゃあ、取れる部屋を出してくれ」 「ただいま確認いたします」 待たされる数分が、やけに長い。ロビーのソファは柔らかいのに、座ると罪悪感の重さが際立つだけだった。美奈は膝の上で指を絡め、真人のため息が聞こえるたびに縮こまる。 「この混雑、何だ」 「……すみません」 「おまえが悪いわけじゃない。だが、状況が悪い」 言い方はきついのに、妙に的確で、返す言葉が見つからない。 やがて戻ってきたフロント係が、困った顔で言った。 「一室のみですが、手配できました。備品はすぐ確認します」 その直後、なぜかタオルの数が足りず、追加を頼んだはずのアメニティも違う種類が並べられる。さらに伝票の名前まで微妙にずれていて、真人は額に手を当てた。 「備品の確認くらい、まともにできないのか」 「重ね重ね申し訳ございません……」 「謝る相手が違う。まず部屋を整えろ」 手続きの書類を書き終えるあいだも、美奈はまともに顔を上げられなかった。自分のせいでここに来たのに、上司にまでこんな不快な思いをさせている。そのことが痛くて、胸の奥がじわじわ熱い。 「相沢」 低い声に呼ばれて、肩が跳ねる。 「はい……」 「今夜は余計なことを考えるな。必要なのは、明日先方の前で崩れないことだけだ」 「……はい」 「声が小さい」 「はい」 真人は苛立ったまま鍵を受け取り、最後にロビー奥の案内板をちらりと見た。だがすぐに視線を戻し、短く舌打ちする。 「まったく。こんな時に限って、ひとつもまともに進まない」 その言葉に、美奈はますますうなだれた。けれど、文句を言いながらも結局は手続きを進めてしまうその背中が、ひどく遠いのに、不思議と頼もしくもあった。彼女はまだ、まともに顔を上げられないまま、鍵の冷たい重みだけを両手で受け取っていた。
謝罪出張、ふたり部屋
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