オフィスの蛍光灯が白く眩しい。昼下がりのデスクで、遥は書類の束を見返していた。確認すればするほど、胃のあたりが重く冷えていく気がした。数値が違う。配送先の担当者名も違う。これでは明日の商談どころの話ではない。 「どうしよう……」 小さく呟いた声は、幸いにして隣の席の同僚には届かなかったようだ。遥は深呼吸をして立ち上がる。震える指を握りしめ、上司のデスクへ向かった。 「課長、お話があります」 正明はパソコンの画面から目を上げずに 「なんだ」 と短く返した。 「これを」 遥が書類を差し出すと、彼はようやく視線を向けた。老眼鏡の奥の目が素早く文面を走る。数秒後、彼は大きため息をついた。 「……遥さん、これはひどいな」 「はい、私のミスです。申し訳ありません」 正明は書類をデスクに放り投げ、頭をかきむしる。 「明日の商談に間に合わせるには、今日中に現地へ行って直接謝るしかないだろう」 「はい」 「俺の今夜の予定がパーだ」 その言葉に遥は目を瞬かせた。 「今夜、ですか?」 「予定があったんだよ。楽しみにしていた店の予約がね」 正明は苛立ちを隠さずに立ち上がり、 「おい、新幹線のチケットを取れ。一時間後のでいい」 と指示した。 「え、課長も行かれるんですか?」 「当たり前だ。お前一人で任せられるか」 遥は唇を噛んだ。彼の強権的な態度は日常茶飯事だが、私的な予定の愚痴を部下の前で漏らすその無神経さには、毎度閉口させられる。 「すみません、本当に……」 「謝る暇があったら手を動かせ。今すぐだ」 遥は 「はい」 と答え、急いで自分のデスクへ戻った。パソコンの前でチケット予約サイトを開きながら、彼女は深いため息を心の中で吐いた。夫には遅くなると連絡しなければならない。今夜の予定を崩された正明の不機嫌さは、これから長く続きそうだった。
謝罪出張、ふたり部屋
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