舞台の幕はない。けれど、祠へ続く石畳の前に組まれた特設の壇上には、いつもと違う静けさが満ちていた。文化祭のざわめきが遠くで揺れ、こちら側だけが薄く切り分けられたみたいに、空気が澄んでいる。 ひなは衣装の裾を押さえ、隣に立つ生徒たちを見た。誰もが少し緊張していたが、昨日までのような刺々しさはない。互いの肩越しに視線を交わし、誰かが小さく息を吸うたび、別の誰かがうなずく。 「行ける?」 ひなが問うと、最初は誰も強く返せなかった。だが、やがて一人が笑って言う。 「行けます。怖いけど」 「私も」 「俺も」 次々に重なる声に、ひなの胸の奥が熱くなる。 「それでいい。怖いのに、ここにいる。それがもう、ちゃんと強いんだよ」 合図とともに、再演が始まった。役をまとった生徒たちは、自分ではない誰かの言葉を借りながら、それでも確かに自分の願いを差し出していく。笑われるかもしれない不安。置いていかれる怖さ。うまく言えないまま飲み込んできた気持ち。それらが舞台の上でそっと並べられるたび、観ている側の空気も少しずつ変わっていった。 ひなはその中心で、ふと胸の奥がほどける感覚を覚えた。見たことのないはずの光景が、懐かしさとともに流れ込んでくる。自分もまた、この場にいた。衣装の端を縫い、言葉にならない願いを拾い集め、祠へ返す役目を担っていた。 「……そうだったんだ」 呟いた瞬間、頭の奥で何かが静かに開いた。 失っていた記憶が、ひとつずつつながっていく。あの夜に見えた未来は、誰かを裁くための映像ではなかった。ばらばらになりかけた心を、もう一度ひとつに結び直すための道しるべだったのだ。 ひなは息を呑み、そして笑った。 「私、止めたかったんじゃない。つなぎたかったんだ」 生徒たちが、その言葉に目を見開く。 「先生?」 「ううん。橘ひな、かな」 自分の名前を口にすると、不思議なくらい地に足がついた。教師としての自分も、生徒たちと同じく、ここで役を担うひとりだ。 ひなは壇上の前へ進み、深く頭を下げた。 「みんな、ありがとう。一緒に立ってくれて」 返事の代わりに、照れた笑いがいくつも起こる。ひなも笑い返した。 「じゃあ、最後は全員で。教師も生徒も、同じ役者として」 祠の前を吹き抜ける風が、衣装の布をやさしく揺らす。誰かが手を差し出し、誰かがそれを取る。ひなはその輪の中に自分の手を重ねた。 たとえこれが終わっても、何かが消えるわけじゃない。むしろ、ようやく始められる。 舞台の上で笑い合う彼らを見ながら、ひなは新しい一歩を踏み出した。
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主人公は22歳、黒髪、ロングウェーブ、Bカップ。理想と現実の差に悩む新人女教師で、恋愛経験が少なく、少し距離を詰められるだけで思考停止する。山奥で封印された祠に迷い込んだことをきっかけに意識を失い、目を覚ますと未来を予知する能力者になっていた。日常の授業の際に、生徒たちがストレスをためていて、主人公に過度に依存しようとしていることを知る。主人公は生徒たちを救おうとする中、自分の中に眠っていた本音や承認欲求を認めてしまう。消えた記憶を追う旅、コスプレ衣装がストーリーのキーとなり、ラストは皆が幸せになる結末。
