エラベノベル堂

山奥で見た素顔

18+ NSFW

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1章 / 全10

オレンジ色の光が木々の間から差し込み、山道に長い影を落としていた。将人は重い足を引きずるようにして歩いていた。肩から掛けたバッグがずしりと重い。週に六十時間を超える労働、終わらない会議、上司の理不尽な要求。全てを忘れるために、彼はこの山奥の温泉宿を目指していた。 「あと少し……あと少しで着くはずだ」 自分に言い聞かせるように呟く。スマートフォンの画面には、頼りない地図が表示されている。電波はすでに圏外になっていた。カーブを曲がった先に、ふと人影が見えた。道端の石に腰を下ろし、足元の地面を見つめている。近づくにつれて、それが女性だと分かった。膝まであるスカート、白いブラウス、そして大きな旅行用トートバッグ。彼女は疲れ果てた様子で、肩を落としていた。 「大丈夫ですか?」 思わず声をかけていた。女性が顔を上げる。切り揃えた黒髪が頬にかかり、大きな瞳が将人を捉えた。 「あ……はい。すみません、ちょっと休んでただけで」 彼女は慌てて立ち上がろうとしたが、足元がふらついた。 「危ない!」 将人は咄嗟に腕を伸ばし、彼女の身体を支えた。 「ありがとうございます……」 彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。 「こんな山奥で、迷いませんでしたか?」 「実は……道に迷ってしまって。『山吹旅館』という宿を目指しているんですが」 「奇遇ですね。俺も同じ宿です」 将人は思わず笑った。 「よかったら、一緒に行きませんか? 地図だと、もうすぐみたいですし」 彼女は驚いたように目を丸くした後、ふんわりと微笑んだ。 「本当ですか? 助かります。華蓮と言います」 「将人です」 二人は並んで歩き出した。夕暮れの山道に、二つの影が重なる。将人はふと思う。この出会いが、ただの偶然なのか、それとも。彼女の横顔を盗み見る。長いまつ毛、白い肌、そしてどこか寂しげな瞳。旅の始まりが、予想もしない物語の幕開けになるなど、この時の将人はまだ知る由もなかった。

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