目覚めた瞬間、隣の布団は既に冷えていた。将人はぼんやりとした意識の中で、手を伸ばした。指先が触れたのは、しわくちゃになったシーツだけ。 「華蓮さん……?」 返事はない。静寂だけが部屋を満たしている。将人は体を起こした。見慣れた自宅のマンションの一室。昨夜の記憶が、まるで夢のように遠く感じられた。 「夢……だったのか?」 いや、違う。シーツに残る微かな香り。彼女の甘い匂いが、まだ鼻先をくすぐっている。将人はベッドから降り、リビングへと向かった。机の上には、彼女が残したであろうメモのようなものはない。連絡先も聞かず、名前しか知らない。ただの一夜の関係として、彼女は消えてしまったのだ。 「バカだ……俺は」 窓の外を見る。都心のビル群が、朝日に照らされて輝いている。いつもの日常。いつもの風景。けれど、胸の中にはぽっかりと穴が開いていた。将人はソファに座り込み、テレビのリモコンを手に取った。何か音が欲しかった。静寂が、あの日の余韻をあまりに残酷に引き剥がしていく。 「……また会えるかな」 独り言が口をついて出る。可能性は低い。名前しか知らない、住んでいる場所も、連絡先も。ただの一方的な想いだけが残された。画面が光り、朝のワイドショーが映し出される。『——大人気アイドル、華蓮ちゃんが、新曲の発表会見を行いました!』アナウンサーの明るい声。将人は息を呑んだ。画面の中央に、見覚えのある顔が映っていた。華蓮だった。艶やかな黒髪、白い肌、そしてあの寂しげな瞳。けれど、今の彼女は、昨夜とは違っていた。華やかなドレスに身を包み、フラッシュを浴びながら、完璧な笑顔を浮かべている。『華蓮ちゃん、今年度の売り出しの——』『——全国ツアーも決定して——』将人は呆然と画面を見つめた。彼女は、あの山奥の温泉宿で疲れ果てていた女性、いや、テレビの向こうで輝く、スターだったのだ。 「アイドル……」 唇から漏れた言葉は、乾いた音を立てて床に落ちた。画面の中の華蓮が、ふとカメラに向かって微笑む。その笑顔は、昨夜、将人の腕の中で見せたものとは違う。作られた、完璧なアイドルの笑顔。けれど、一瞬だけ。ほんの一瞬、彼女の瞳の奥に、将人だけが知る寂しげな光が宿ったように見えた。『——質問にお答えします』彼女の声がスピーカーから流れる。昨夜と同じ、甘い響き。将人は目を閉じた。昨夜の記憶が、鮮やかに蘇る。彼女の温もり、吐息、そして一つになった瞬間の熱。あれは、誰にも明かせない秘密。二人だけの、永遠の記憶。 「華蓮さん……」 将人は画面に向かって、静かに呟いた。 「忘れないよ」 画面の中の彼女は、何も答えない。ただ、アイドルとしての笑顔を貼り付けたまま、カメラに向かって手を振っていた。将人は微かに笑った。日常に戻った。けれど、胸の中には、消えることのない熱が残っている。あの山奥の温泉宿で交わした一夜。それは、二人だけの秘密として、永遠に心の中に刻まれることになった。
検閲済みプロット
仕事に疲弊したサラリーマンの将人は、全てを忘れるために人里離れた山奥の温泉旅館へ向かう。途中、疲れ果てて座り込んでいた大学生の華蓮と出会い、親切心から一緒に宿へ向かう。宿泊客は二人だけ。夕食で酒を酌み交わし、互いのストレスを吐露して親密になる。夜には互いを激しく求め合い、明け方まで情熱的なSEXを繰り広げる。翌朝、彼女は既に宿を発っており、連絡先を聞けなかった将人は後悔するが、帰宅後にテレビで彼女が人気アイドルであることを知る。










