窓の外が白み始めていた。夜通し続いた情事の余韻が、まだ空気の中に甘く漂っている。将人は華蓮の華奢な身体を抱きしめたまま、荒い息を整えていた。汗に濡れた肌が心地よく密着し、互いの鼓動だけが静かに響き合う。 「はぁ……はぁ……」 華蓮の肩が小さく震えている。何度も絶頂に達した彼女の身体は、今は力が入らないようだった。 「将人さん……私……」 彼女の声は囁くほどの大きさしかない。 「ん……」 将人は彼女の汗で張り付く髪を優しく払い、額に口づけを落とした。 「すごかった……」 自分でも言葉にならない思いだった。日常の疲れも、孤独も、全てが快楽の波に洗い流されたような感覚。ただ、腕の中の温もりだけが、今の彼にとって全てだった。 「もう朝だね……」 華蓮が窓の外を見る。薄青い光が山の稜線を縁取り、徐々に明るさを増していく。 「ああ……そうだな」 将人は彼女を強く抱きしめ直した。名残惜しさが胸の奥から込み上げてくる。この夜が終われば、また現実が待っている。けれど、今はまだ、この温もりを手放したくなかった。 「華蓮さん……」 呼ぶと、彼女は小さく 「ん」 と返し、将人の胸に顔を埋めた。 「眠くなってきた……」 彼女の声がくぐもっている。 「俺もだ……」 まぶたが重い。心地よい疲労感が全身を包み込み、意識を深い場所へと引きずり込んでいく。 「少し……寝ようか」 「うん……」 華蓮の規則正しい呼吸が、将人の胸に伝わってくる。彼は彼女の温もりを感じながら、夢現の中で彼女への想いを反芻していた。この出会いが、一夜の奇跡で終わってしまうのか。そう考えると、胸のどこかが痛んだ。けれど、今は考える力も残っていない。将人は深い眠りの淵へと落ちていった。その寝顔を見つめながら、華蓮は静かに身じろぎした。彼女は眠る将人の頬に、そっと指先を伸ばす。 「将人さん……」 触れた肌は温かく、少し汗ばんでいる。彼女の指先が、彼の顔の輪郭をなぞるように動いた。その瞳には、言えない何かが宿っていた。やがて彼女もまた、彼の腕の中で瞳を閉じた。薄明かりの中、二人の身体は重なり合ったまま、静かな眠りへと落ちていく。山奥の古びた宿に、朝が静かに訪れようとしていた。
山奥で見た素顔
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