放課後の路地は、夕日が電線の隙間から細く差し込んで、家々の壁に長い影を落としていた。隼斗は自転車を押しながら角を曲がり、見慣れた隣家の前で足を止める。そこに立っていた若菜が、いつもの彼女じゃないみたいに見えたからだ。 「……若菜?」 呼ぶと、彼女はびくりと肩を揺らした。今日の服は、普段の清楚なワンピースとは少し違う。落ち着いた色合いなのに、どこか大人びていて、袖口も裾も妙に気になる。髪もいつもより整えすぎている気がした。なのに、本人は自信満々というより、うまく息ができていないみたいな顔をしている。 「な、なに?」 「いや……今日、なんか雰囲気違うなって」 隼斗がそう言うと、若菜は視線を泳がせ、それから無理に口角を上げた。 「べ、別に。なんでもないよ」 「なんでもない顔じゃないだろ」 「いいの。ほんとに、なんでもないから」 言い切る声は軽いのに、指先だけが落ち着かない。裾をつまんだり、袖を引いたり、隠すみたいに小さく動いている。その仕草が妙に気になって、隼斗は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。 何を隠してるんだろう。聞けば答えてくれる気もする。でも、聞いた瞬間にこの空気が壊れそうで、足が止まったままになる。 若菜はそんな隼斗の沈黙をどう受け取ったのか、今度は少しだけむっとした顔をして、それから誤魔化すように笑った。 「そんなに見ないでよ」 「見てない」 「見てる」 「……少しはな」 その返事に、若菜の頬がほんのり赤くなる。けれど、すぐに彼女は視線をそらして、ぶっきらぼうに言った。 「ほんとに、なんでもないってば」 強がる声の裏で、彼女が何かを必死に抱えているのだけは分かる。隼斗は困ったまま頭をかき、気まずさを笑いに変えるように息を吐いた。 「そっか。まあ、変なこと考えてるなら、あとでちゃんと聞くからな」 「変なことじゃないし」 即座に返ってきたその言葉だけが、やけに早かった。 若菜はもう一度だけ小さく笑う。その笑顔はいつも通りなのに、どこかぎこちなくて、隼斗の胸にひっかかる。夕暮れの風が路地を抜け、二人の間を静かに通り過ぎた。若菜はその流れに紛れるみたいに、こっそり袖を引き下ろしながら、次の言葉を探しているようだった。
ワンピースの向こう側
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