朝の光が、見慣れた通学路の交差点を白く薄めていた。隼斗が角を曲がると、そこに立っていた若菜が、思わず足を止めたくなるほど雰囲気を変えていた。 「……え」 昨日より少しだけ背伸びした服装。けれど今日は大人びたというより、どこか落ち着かない気配のほうが勝っている。髪もきっちり整っていて、本人はきっと自信満々で待っていたはずなのに、隼斗の顔を見た瞬間、その表情が硬くなった。 「な、なに、その顔」 「いや、びっくりしただけだって」 「びっくりするほど変?」 「変っていうか……いつもと違う」 言った瞬間、若菜の肩がぴくりと跳ねた。昨日のように誤魔化して笑うかと思えば、今日は逆に視線を逸らして、靴先ばかり見つめている。 「……別に。たまにはいいでしょ」 「うん、似合ってる」 隼斗が何気なく返すと、若菜は一瞬だけ息を止め、それからますます固くなった。 「そ、そういうことを平然と言うの、やめて」 「なんでだよ」 「なんでもない」 その返しが、昨日のなんでもないよりずっと早い。隼斗は首をかしげたまま、彼女の様子をうかがう。見られたくて気合いを入れたはずなのに、いざ視線を向けられると逃げ腰になる。その不器用さが、余計に胸をざわつかせた。 「若菜、今日なんか隠してるだろ」 「隠してない」 「じゃあ、なんでそんな顔なんだよ」 「……隼斗が悪い」 意味が分からず聞き返すと、若菜は頬をふくらませたまま、急に話題を変えた。 「それより、昨日の続きでしょ」 「昨日の続き?」 「だから、えっと……ほら、あれは、別に」 言いかけて、また止まる。引っ越しという言葉だけは、口の手前で何度も押し返されているみたいだった。隼斗はその反応で、胸の奥に小さな棘が刺さるのを感じる。 「若菜」 「なに」 「昨日から、妙にその話避けてないか」 若菜ははっとして、今度は本当に困った顔をした。けれどすぐに、誤魔化すように笑う。 「べ、別に。そんな話、してないし」 「してないから余計気になるんだろ」 言い返された瞬間、彼女の頬がほんのり赤くなった。朝の空気の中で、二人の会話だけがうまく噛み合わない。隼斗は答えを急ぐべきか迷いながら、ただ胸騒ぎだけを抱えたまま、隣に立つ若菜を見た。彼女は視線を合わせず、何度も言葉を探しては飲み込み、そのたびに、引っ越しの話題だけが遠ざかっていく。
ワンピースの向こう側
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