放課後の人波がまだ完全には引かない商店街で、隼斗は文具店の前に立たされていた。色とりどりのノートが並ぶガラス越しに、店先の旗が風で揺れている。その前で腕を組んだ若菜は、わざわざ呼び出しておいて、なぜか妙に落ち着かない。 「だから、買い物に付き合ってって言ったでしょ」 「言ったけど、何を買うのかまだ聞いてない」 「あとで言うから」 「そこ一番あやしいんだけど」 若菜はむっとした顔を作る。でも、その服装は文句を隠しきれないくらい気合いが入っていた。いつもより少しだけ大人びた上着に、髪も丁寧に整えてある。本人は平然としているつもりらしいが、隼斗からすれば、背伸びしているのが丸わかりだった。 「変じゃない?」 「変じゃない。似合ってる」 何気なく言うと、若菜は一瞬だけ固まり、それから急に目をそらした。 「そういうの、軽く言わないで」 「軽くじゃないし」 「じゃあ、なおさらやめて」 声は強気なのに、耳だけが赤い。隼斗は苦笑しながら、店先の窓に映った彼女をちらりと見た。たしかに周囲の視線は集まる。通り過ぎる学生たちが、ちらちらと若菜を見ては小声で何かを交わしている。そのたびに、若菜は肩をこわばらせた。 「ほら、見られてる」 「見ないで」 「無茶言うなよ。目立ってるの、そっちだろ」 「だから、その言い方もやめてってば」 苛立ったように言いながらも、若菜の指先は落ち着かず、バッグの端をきゅっと握っている。呼び出した勢いはあるのに、肝心の買い物の話になると、彼女の口はぴたりと閉じてしまう。 「で、結局なに買うんだ?」 「えっと……それは……」 「それは?」 「まだ、決めてない」 「決めてないのに連れ出したのか」 「うるさいなあ」 拗ねた声は出すくせに、若菜は隼斗の顔をまともに見られない。視線を上げるたびに空回りして、言葉を探すたびに余計に不自然になる。その様子が、妙に必死で、隼斗はからかう気を少しだけ弱めた。 「まあいいけど。ゆっくり見ればいいだろ」 「……うん」 そう返した若菜の声は、さっきまでより小さい。彼女は店のショーウィンドウから目を逸らし、通りの向こうを見た。夕方の光が頬に落ちて、普段よりずっと大人びて見えるのに、本人だけがその重さを持て余している。 「なあ、若菜」 「なに」 「今日、なんか変だぞ」 「失礼だな」 「褒めてるつもりでも、そう見えないんだよ」 若菜は唇を結んだまま、言い返せずにいる。買い物袋どころか、目的の一つもまだ口にしていない。その不器用さが、隼斗には少しだけかわいくて、少しだけ心配だった。結局彼は、文具店の明るい窓と、そこに映る不揃いな二人の姿を見比べながら、次の言葉を待つことにした。
ワンピースの向こう側
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