朝の光がカーテンの隙間から差し込む中、悠真は靴紐を結んでいた。今日は水曜日、いつも通りの出勤日だ。リビングでコーヒーを淹れて、トーストをかじって、歯を磨いて。十年以上続けてきた同じルーティン。何一つ変わらないはずの朝だった。 「おはよう、悠真くん。」 鍵を回した瞬間、背後から声がして振り返る。隣の部屋から出てきた花音が立っていた。幼馴染で、物心ついた頃からずっとこの距離で育ってきた。いつもなら挨拶だけで通り過ぎる日常の風景。けれど今日の彼女は、どこか違っていた。 「お、おはよう……」 悠真の声がわずかに裏返る。花音が着ているのは、いつもの膝丈の清楚なワンピースではない。淡いピンクのカットソー。それも、胸元が大きく開いたデザインで、鎖骨からふくらみのラインまでが露わになっている。白く滑らかな肌が、朝の光を浴びて淡く輝いて見えた。 「どうしたの? 変な顔して。」 花音は小首をかしげる。無邪気な表情。何の意図もないように見える笑顔。けれどその角度で、胸元の谷間がより深く強調されることに、彼女自身は気づいているのだろうか。 「いや、その……服、新しいのか?」 視線を合わせたまま保とうとするのに、意識がどうしても下がってしまう。ふわりと甘い香りが漂ってくる。シャンプーの匂いか、それとも肌そのものの芳香か。 「これ? ママが買ってくれたの。涼しそうでしょ。」 彼女は無造作に胸元を手で払う仕草を見せる。その動きで柔らかな曲線が揺れ、悠真は息を詰めた。まずい、と本能が警報を鳴らす。幼馴染だ。赤ん坊の頃から知っている相手だ。なのに今、喉が渇き、手のひらに汗が滲んでいる。 「じゃあ、いい一日でありますように。」 花音は屈託なく笑って、階段へと向かう。ふわりと裾が翻り、華奢な背中が遠ざかっていく。悠真は大きく息を吐き出した。心臓の鼓動が、いつもより早い。
ワンピースの向こう側
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