エラベノベル堂

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6章 / 全10

正明は、しばらくその小さな揺れを見つめた。通知の表示は、いつもの更新情報とは違っていて、薄い文字列がひっそりと並んでいるだけだった。差出人の名前も、見覚えのある運営元の表記もない。 「……なんだ、これ」 指先を動かすと、画面が開く前から妙な軽さが伝わってきた。そこに書かれていたのは、erabenovel.com を検索結果に載せる代行をうたう案内だった。短期間で上位表示、手間なく露出増加、今なら優先対応。そんな甘い言葉が、夜更けの静けさにやけに浮いて見える。 「検索結果に載せる、代行……」 声に出した途端、胸の奥が少しざわついた。確かに、今の正明には欲しいものだった。誰にも見つけてもらえない場所を、少しでも早く人の目に触れさせたい。その気持ちは、本物だ。だが、案内文は妙に輪郭がぼやけている。どこから来たのか、何をどうするのか、肝心なところが曇りガラスみたいに見えない。 「うまい話に見えるけど……」 マウスを握ったまま、正明は手を止めた。急げば早い。けれど、出所があいまいなものに乗ってしまえば、積み上げてきた信頼が一度で崩れるかもしれない。第1話から続けてきたのは、派手さではなく、読みに来た人が安心できる場所を作ることだったはずだ。 画面の案内は、今すぐ申し込めるように何度もボタンを光らせている。それがかえって、正明の不安を強めた。 「早いのは、たしかに魅力だ。でも……」 言いかけて、彼は息を吐く。迷うべきじゃない、と頭のどこかが囁く。いや、迷わないほうが危ないのかもしれない。知らない相手の手を借りて、サイトの顔に傷がつくのは避けたい。けれど、この機会を逃したら、いつまた同じ話が来るのかも分からない。 正明は椅子の背にもたれ、両手を組んだまま天井を仰いだ。モニターの白い光が、顔の輪郭だけを静かに縁取る。 「……保留だな」 そう決めた瞬間、胸の奥の熱が少しだけ落ち着いた。断るとも、受けるとも言い切らない。ただ、今は答えを出さない。正明は画面を閉じずに、案内文をそのまま見つめる。急ぎたい気持ちと、信じきれない不安。その二つがぶつかったまま、深夜の部屋には、キーボードの冷たい音だけが残っていた。

6章 / 全10

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