エラベノベル堂

神様の告白

全年齢

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1章 / 全10

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「遅いじゃん、章太」 人波の切れ間から聞こえた声に、章太は提灯の灯りを探すみたいに顔を上げた。 「悪い、ちょっと迷った」 「迷うほど広くないでしょ。ほら、こっち」 手を振った先に立っていた花を見た瞬間、章太は息を呑んだ。浅葱色の浴衣に白い花柄が散っていて、いつもの動きやすい服装とはまるで違う。髪もきれいに結われ、頬を染める化粧が提灯の光を柔らかく受けていた。 「……何、その顔」 「いや、似合ってる」 「え」 花が一瞬だけ目を丸くして、それからむっと唇を尖らせる。 「今さら真顔で言わないでよ。こっちまで変になる」 「変なのはお前だろ。そんな格好、反則」 「反則って何」 笑いながらも、花は少しだけ視線を逸らした。その仕草が妙に胸に残って、章太は頭のどこかが熱くなるのを自覚した。 二人は屋台の並ぶ参道へ歩き出す。焼きそばの匂い、綿あめの甘さ、遠くで鳴る笛の音。子どもの頃から何度も来た場所なのに、花と並ぶだけで景色の輪郭が違って見えた。 「覚えてる? 小さい頃、ここで迷子になったの」 花が串焼きを指でつつきながら言う。 「お前が勝手に走ったんだろ」 「章太が遅いから、追いつけると思ったんだもん」 「五歳の理屈じゃない」 「でも章太、泣きそうな顔してた」 「してない」 「してた」 花は得意げに笑った。章太は言い返せず、代わりにソースの香りがする焼きとうもろこしを差し出す。 「じゃあ、今日ははぐれるなよ」 「うん」 その返事がやけに素直で、章太はまた目を逸らした。昔は何でも言い合えたのに、いつからこんなに一つ一つの言葉が気になるようになったのか。 金魚すくいの水面に揺れる光を見ていると、花がふっと笑う。 「昔、章太が取れた金魚、すぐ死なせちゃったの覚えてる?」 「やめろ、あれは事故だ」 「『名前はまだない』って言ってたのに、次の日にはめちゃくちゃ落ち込んでた」 「忘れろって」 「忘れない。だって、あのときの章太、今よりずっと素直だったし」 「今だって素直だろ」 「ほんとに?」 花が覗き込んでくる。近い。近すぎる。章太は思わず半歩引き、そのぶんだけ胸の奥がうるさく跳ねた。 「近いって」 「逃げたでしょ」 「逃げてない」 「じゃあ、どうして顔赤いの」 「暑いだけだ」 花はくすくす笑い、指先で浴衣の袖を揺らした。そのたびに漂う淡い香りが、章太の集中を少しずつ削っていく。 人混みの向こうで、盆踊りの太鼓がどんと鳴った。祭りはまだ始まったばかりなのに、もう十分すぎるほど胸が落ち着かない。昔みたいに気楽な顔をして並んでいるだけで、どうしてこんなにも苦しいのか。章太は横を歩く花の横顔を見てしまい、見てしまったことをまた後悔した。 「ねえ、章太」 「何」 「今夜、まだいっぱい回るよね」 花の問いに、章太はすぐ答えられなかった。うなずけば、もっと長くこの距離のまま歩くことになる。首を振る理由もない。 「……ああ。付き合う」 花は満足そうに笑った。 その笑顔が、提灯の光よりずっとまぶしく見えた。

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