「じゃあ次、あれ行こうよ」 花が指差した先で、輪投げの輪が宙を弧を描いていた。章太が並ぶと、花はもう勝ったみたいな顔で笑う。 「得意なの?」 「別に。でも章太よりはできるし」 「言ったな」 結果は、ほとんど互角だった。章太が景品の小さな狐の面を取り損ねれば、花が悔しそうに唇を尖らせる。逆に花が輪を外せば、章太は思わず笑ってしまい、そのたびに花が肩をぶつけてくる。 「笑わないでよ、今のは風だし」 「風ってことにするのか」 「するの」 軽口を交わすだけなのに、胸の奥が妙にくすぐったい。指先が触れそうで触れない距離が、なぜかいちばん落ち着かなかった。 輪投げのあと、二人は金魚すくいの前でしゃがみ込んだ。水面を泳ぐ赤い影を花が真剣な目で追う。 「ほら、あれ、でっかい」 「取れるかよ」 「章太ならいけるでしょ。昔から無駄に器用だし」 「褒めてんのかそれ」 花は笑って、紙のこよりを渡してくる。その手が一瞬だけ章太の指に触れて、二人同時に動きを止めた。 「……今、触れた」 「うるさい、わざとじゃない」 「わざとだったら困るけど」 「困るな」 言いながら、どちらも次の言葉を失う。冗談にすれば楽なのに、花の耳がうっすら赤いのが見えてしまって、章太の喉は妙に乾いた。 気づけば、祭りの中心の喧騒が少し遠い。人の波に押されるように、花が章太の袖をきゅっと引いた。 「こっち」 「おい、急に引っ張るな」 「人多いから」 文句を言いながらついて行くと、境内の縁台のそばまで来ていた。屋台の明かりが届くぎりぎりの場所で、二人分の影だけが木の板に並ぶ。 花は袖を離さないまま、少しだけ顔を上げた。 「ねえ、章太」 「何だよ」 「今日、なんか変」 「お前が言うな」 「そうじゃなくて」 花は口を閉じて、それから困ったように笑う。章太も笑うべきだとわかっていたのに、なぜか息が詰まった。 近い。さっきまでより近い。袖を引く指先の熱だけが、やけに鮮明だ。 「……変なのは、お前もだろ」 「え」 「輪投げで負けたあと、悔しそうな顔してたのに、すぐ笑うし」 「だって、章太が変なこと言うから」 「俺のせいか」 「そう。昔からそう」 花はそう言って、少しだけ視線を逸らした。その横顔が、祭りの灯りに照らされて柔らかく揺れる。章太は何か言おうとして、結局飲み込んだ。 言葉にすれば壊れそうで、何も言わなければこのまま終わりそうで、どちらも怖かった。 花も同じなのか、袖を掴んだまま動かない。人混みのざわめきと、遠くの太鼓の音だけが、やけに大きく聞こえた。
神様の告白
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