エラベノベル堂

約束の一本

全年齢

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10章 / 全10

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「今の、誰?」 美桜の声は、畳の熱をまだ含んでいた。入口のほうへ向けた視線の先で、気配はもう薄れている。だが、今の一瞬を見逃さなかった自分に、少しだけ胸が弾んだ。 颯人はすぐに答えず、静かに足を止めたまま周囲を見回した。 「たぶん、通りかかっただけです」 「本当に?」 「ええ。ここでは、よくあります」 その落ち着きに、美桜はむっとしかけて、すぐに息を吐いた。前の自分なら、気配の主を追いかけるように突っ走っていたかもしれない。けれど今は、無理に答えを求めなくてもいいと、少しだけ思えた。 「……ふうん」 「気になりますか」 「別に。ちょっと見えただけだし」 「なら、続けましょう」 颯人が構えを整える。美桜も肩の力を抜き、もう一度向き直った。さっきまでより、足裏の感覚がはっきりしている。相手の動きを追うたび、崩される前に気づけることが増えていた。 「来てください」 「言われなくても」 踏み込む。今度は焦らない。組み手を取る瞬間も、相手の重心がどこにあるかを確かめる余裕がある。颯人はわずかに目を細めた。 「いいですね。その感じです」 「上から言わないで」 「上ではありません。横です」 「何それ」 思わず笑いそうになって、美桜は唇を噛んだ。悔しいのに、今はそのやり取りが少しだけ心地いい。勝ちたい、でもそれだけじゃない。自分の動きがよくなっていくのがわかるのが、たまらなく面白かった。 足を運び、肩を入れ、重心の移りを読む。少し前までは見えなかった流れが、今日は手のひらに触れるみたいにわかる。颯人の崩しを受けても、以前ほど大きくは揺れない。 「……私、前より動けてる」 「ええ。見違えるほどです」 「そんなに?」 「はい。支える側としても、頼もしいです」 その言葉に、美桜は目を瞬かせた。勝つ人ではなく、支える人。その響きが、胸の奥にすとんと落ちる。 「支える側、ね」 「美桜さんは、そういうのも似合います」 「ほんと、急に何なの」 「事実です」 今度は、むっとするより先に、熱がこみ上げた。照れくさい。なのに、悪くない。 組み合ったまま数度の攻防を交わし、やがて美桜は自分から一歩引いた。負けを認めるためではない。相手の動きを受けて、次を作るための一歩だ。 「まだ、いける」 「はい。いけます」 颯人も答える。そこには、押し伏せるための圧ではなく、背中を預けられるような静けさがあった。 美桜は笑う。いつもの挑発ではなく、少しだけ息の混じった笑みだった。 「ねえ、早瀬」 「なんですか」 「私、あんたの相棒でいい」 颯人は一拍だけ目を伏せ、それから軽く頭を下げた。 「ありがとうございます」 「礼が丁寧すぎるってば」 「では、こちらも」 彼が返した軽い礼に、美桜も同じように頭を下げた。ほんの短い動作なのに、胸の奥が静かに満たされる。勝負は恋の始まりではない。支配でもない。ただ、互いを強くするために隣に立つ。そんな関係が、思っていたよりずっとしっくりきた。 「じゃあ、今日はここまで」 「ええ。また次に」 畳の上で向き合ったまま、二人はもう一度だけ小さく礼を交わした。入口に残っていた気配は、もうどこにもない。だが美桜は、なぜかそのことを気にするより先に、次の一本を思い浮かべていた。

検閲済みプロット

クラスの柔道部の女子が大会で一位になる。調子に乗ってきた女子は『もしも私に柔道で勝てたら何でも言うことを聞いてやる』と主人公に軽々しく話す。実は主人公は元柔道選手で大会で一位になったこともある強者。人気のない柔道場で勝負を行うことになったが、余裕の主人公は勝負中に女子に翻弄するような心理戦を仕掛ける。高揚から逃れられない女子はあえなく敗北となり、主人公の子分となってしまうコメディ。試合中に女子は何度も動揺し、屈辱の結果となる。

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