エラベノベル堂

呪われた女魔王

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1章 / 全10

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喉の奥に残るのは、焼けた空気と鉄の味だった。膝をついたはずの感覚も、もう曖昧だ。砕けた玉座、崩れ落ちた天井、勇者の剣先に追い詰められた瞬間の白い光。あれが終わりで、終わりのはずだった。 なのに、まぶたを押し上げた先には、別の天井があった。高い。ひび割れた石組み。夜明け前の薄暗さが、玉座の間を青く沈ませている。 「……生きて、いる?」 声が、自分のものではないほど細い。反射的に手を伸ばして見下ろせば、そこにあったのは見慣れた爪の手ではなかった。白く細い指。袖口の広い、妙に軽い衣。視界の端で揺れる髪は長く、肩にかかるほど柔らかい。胸のあたりに落ちる布の感触が、ありえないほど現実的だった。 私はゆっくりと立ち上がる。足元がふらつく。体の芯に宿っていたはずの魔力は、灯火の残り火みたいに頼りない。いつもなら呼吸ひとつで床を震わせられたはずなのに、今はただ、冷たい石の感触を確かめることしかできない。 「ふざけるな……」 吐き捨てた声は、威厳の欠片もなかった。だが、胸の奥に沈む怒りだけは消えていない。勇者。あの眩しい顔。仲間たちの叫び。私の城を踏み荒らした足音。敗北の瞬間に喉まで届いていた言葉を、私は今さらながら噛みしめる。 次は、必ず殺す。 そう誓った途端、背後の気配がいくつも固くなった。 振り返るまでもない。壊れた柱の影、倒れた燭台の向こう、煤けた床の上。魔物たちがいた。こちらを見ている。息をひそめ、値踏みするように。敬意より先に、戸惑いと警戒が浮かんでいるのが分かった。 「魔王様……?」 誰かがそう呟く。けれど、その声には昔の震えがない。 私は背筋を伸ばした。伸ばしたつもりだった。けれど、今の体ではただ少し背の高い学生めいて見えるだけかもしれない。悔しさがこみ上げる。こんな姿で、どうやって城を支配する。どうやって復讐を遂げる。 それでも、ここで折れるわけにはいかない。 「見ていなさい。私が戻った以上、勇者の好きにはさせない」 言い切ると、魔物たちの視線がいっそう冷えた気がした。ある者は顔を背け、ある者は小さく肩をすくめる。まるで、久しぶりに現れた主君の変貌を、どう扱うべきか決めかねているみたいに。 私は歯を食いしばり、崩れた玉座を見上げた。あの場所に再び座る。まずはそこからだ。だが、薄明かりの中で揺れる自分の影は、あまりにも頼りなくて、玉座よりずっと遠くにあるように見えた。

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