エラベノベル堂

呪われた女魔王

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2章 / 全10

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朝の光が石床の割れ目にまで差し込むころ、私は玉座の間を出て大広間へ足を踏み入れた。昨夜より少しは呼吸が楽だ。とはいえ、胸の奥で燃える怒りに体が追いついていない感覚は変わらない。 「集まれ。私の声を聞け」 できるだけ低く、鋭く。威厳だけは失わないつもりで命じた。だが、返ってきたのは思ったより軽いざわめきだった。黒い影の群れが、柱の陰や階段の上から顔をのぞかせる。誰もひざまずかない。 「おお、新しい主のご登場だ」 「今日は何を見せてくれるんです?」 見世物ではない。そう言い返そうとして、私は掌を開いた。簡単な威圧の術で黙らせるつもりだったのだ。だが、魔力は指先で小さく弾けただけで、天井に届く前にしおれた火花になった。 「……っ」 空気が、妙に静かになる。次の瞬間、何匹かの魔物が一斉に拍手した。 「今の、かわいい」 「うわ、本当にやる気だ」 かわいい、だと。私は奥歯を噛みしめた。反論しようとしたとき、床を掃いていた小鬼が私の言葉を別の命令だと勘違いしたらしく、勢いよく走り去った。 「魔王様が掃除をしろと!」 「違う、待ちなさい!」 止める間もなく、別の魔物が 「じゃあ窓も開けますね」 と叫んで壁際の重い扉に手をかける。さらに誰かが 「新しい余興の準備か」 と笑い、妙な楽器まで持ち出してきた。私は頭が痛くなった。 「私は余興の主ではない。命令は一つ、城内を整えろ。私のために、すぐにだ」 今度こそ通じたかと思ったが、魔物たちは互いに顔を見合わせ、なぜか深くうなずいた。 「なるほど、整えるのが大事なんだな」 「つまり、通路に並べるんだ」 「飾り付けだな」 違う。そう叫ぶ前に、広間の片隅から何かが転がり出る音がした。誰かが積み上げた椅子の束が傾き、危うく床へ崩れ落ちる。私は反射的に手を伸ばし、何とかそれを支えた。ほんの一瞬のことなのに、魔物たちの目が少しだけ変わる。 「おお、今のは速かった」 「命令より先に体が動いたぞ」 私は息を吸い込んだ。認められない。力も足りない。だが、それでもここで引くわけにはいかない。 「次は、私の言うことを正確に聞きなさい。私は魔王だ。お前たちの主だ」 その言葉の先で、広間の空気はまだ完全には変わらない。けれど、誰かが笑うのをやめ、誰かがこちらをまっすぐ見た。私は崩れかけた椅子を押さえたまま、冷えた床の上に立ち続けた。魔王として認めさせるための最初の一歩は、どうやら戦いよりずっと厄介らしい。

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