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ラストワン

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1章 / 全10

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春菜は不動産会社のガラス張りの会場で、目の前の間取り図を睨みつけていた。最後の候補に残った部屋は、駅からの距離も日当たりも悪くない。なのに、同じ椅子に座る男の顔を見た瞬間、胸の奥で何かがきしんだ。 「……あの、先に申し込みしたの、こっちです」 向かい側の男は、健人と名乗った。背もたれに浅く腰をかけ、余裕そうな目で春菜を見返す。 「いや、こっちも同時だろ。受付の人、そう言ってた」 「でも、私の方が先に物件資料を受け取ってました」 「そんなの関係ある?」 声が少し大きくなったせいで、受付の女性が慌てて笑顔を作る。春菜は資料を握りしめたまま息を吸った。ここで引いたら負けだ、と変な意地が喉の奥までせり上がる。 結局、二人とも申し込みは有効ということで、抽選になった。くじの封筒が開かれるまでの数分が、やけに長い。春菜は靴先を揺らし、健人は腕を組んで天井を見上げていた。 「……同じだ」 係員の声に、春菜は反射的に顔を上げた。 「え?」 「同じ部屋です。両方当選ですね」 空気が固まった。春菜は思わず健人を見た。向こうも同じように目を見開いている。だが次の瞬間、彼は口の端を上げた。 「じゃあ、折半でいいだろ」 「は?」 「部屋を半分ずつ使う。現実的だ」 春菜は耳を疑った。冗談かと思ったのに、健人の目は本気だった。 「勝手に決めないでください。そもそも、そんな暮らし方、ありえません」 「ありえないのは、知らない相手と同じ部屋を争ってる今の状況だろ」 係員が困ったように咳払いをする。春菜は唇を噛んだ。納得なんてしていない。けれど、ここで申し込みを取り下げれば、また一から探し直しになる。それはそれで悔しい。 「……入居、します」 絞り出すように言うと、健人も短く頷いた。 「俺も」 会場を出ると、春の光がやけに眩しかった。初対面のはずなのに、もう相手を負かしたくてたまらない。健人も同じ気持ちらしく、並んで歩く足音が妙に速い。 「先にルールは決めますから」 「そっちこそ、勝手に決めるなよ」 「勝手なのはどちらですか」 言い返した春菜に、健人は鼻で笑った。 その笑い方が、妙に腹立たしい。 同じ部屋で暮らすことになっただけで、どうしてこんなにも火花が散るのか。春菜は空を見上げ、これから始まる生活の面倒さを思って、静かに目を細めた。

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